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Scarlet 0
「覚えてるか」
「何をー?」
腕を掴む弟分、シアンの猫なで声がスモッグと秋風に溶ける。
俺もこいつもかぶってるフードのせいで表情はよく見えない。
「あれが襲ってきたこと」
シアンは腕を離すとスルスルと柱を登り駅のホーム屋根に這い上がった。夜明け前の薄明るい空と煙が上がる街を一瞥し、退屈そうに足を揺らす。
誰かに見られたらどうする、と言いかけて、やめた。見つかったらまずい理由を説明させられたら、余計な記憶が生まれる。
「……覚えてないよー?」
能天気な声が降ってくる。
成功したか。
俺は上着のポケットをまさぐった。小さい金属の棒とガラスの箱の感触がある。
このストックもいつまで持つかわからない。この逃亡を続ける限り……襲撃されるストレスの記憶が生まれ続ける限り、安心はできない。
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