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「先生、どうして目を覚まさないのですか?ここ最近ずっと調子がよかったのに……」 「正直、わかりません。ただ、数日記憶を留めることが出来たことによって、脳が疲労していることは間違いないと思います。今は眠って回復しようとしているのでしょう。とりあえず今は待つ事しか――」 彼女の状態は脳死とも違う。 ちゃんと生きているし、目を覚ませば記憶は曖昧でも、言葉も話せるし動くこともできる。 事故の後もしばらくは長い眠りについていたけれど、目覚めてからは記憶が残らないという事以外は健康体だった。 僕はそれ以来、彼女の治療費からお世話まで、すべての事をうけおっている。婚約者として――。 こんなにも長い時間、君と一緒に過ごしているのに……、今日も君の中に、僕は存在していない。
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