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「ねぇ――」
背中から聞こえた声に僕は驚き、勢いよくその場で振り返った。
え?
なんと君が上半身を起こしてベッドに座っていた。
一瞬、何が起きたのかわからなかった。目の錯覚かと思いゴシゴシ強くこする。
君は長く伸びた髪を手で後ろに払い、僕を見る。
僕は今すぐ君に近づきたいのに、足に根っこが生えたみたいに動けない。おまけに喉の奥もひりついて、声すら出ないんだ。
出来たのは、ただただ、目を見開くことだけ――、
「ねぇ、誠?」
それは僕の名前だった。君が呼んでくれたのは僕の名前――。そして呼び捨て!覚えてくれてる!
吸い寄せられるように足を動かし、ベッドのすぐ脇の床に膝をつく。
見上げる僕と見下ろす君。
君は少し笑って「ねぇ、覚えてる――?」と僕に問う。
久しぶりに見た君の八重歯が涙で滲んでいき、
「何を?」と返す僕の声は震えていた。
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