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3.
「ねぇ、覚えてる?」
「何を?」
「今日が何日か覚えてる?」
「あぁ、知ってるよ。6月5日だよ」
「……そうなんだ」
「どうかした?」
「いや……何日だっけと思って。この部屋にはカレンダーがないみたいだし」
「そうだね……」
「そういえば、時計もないのね」
「そうだね……」
「困らない?」
「どうして?」
「だって、時間がわからないと普通は困るでしょ?」
「君は困ってるの?」
「……別に困ってない」
ハハッと笑われる。
こんな声してるんだ……。
「僕も困ってないよ。時計があると終わりがあるみたいで、なんか嫌でしょ」
「そうなの?」
「そうだよ。僕はここにずっといたいから、時計なんていらないのさ」
「変な人」
「よく言われるよ」
「誰に?」
「……」黙り込んでしまったその人。少しだけ寂しそうに眉尻を下げた。
「誰だったかな……」
「覚えてないの?」
「そうみたい。僕にも覚えてないことがあるらしい。君と一緒だ」
「私はちゃんと覚えてるわ。私は――」
あれ? 私は――? 私は誰?
「君は君だよ。それ以外の何者でもない。さぁ、目を閉じて……、少し疲れてるみたいだから、おやすみ……」
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