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言いたいけれど、言えなくて
好きなものを、好きと言うこと。
間違ったことを、間違いだと言い切ること。
思ったことをはっきりと口にするのって、どうしてこんなにも難しいのでしょうか。
私にもっと勇気があれば、こんな状況にもならずに済んだはず――
「結衣~! プリンいらないなら、あたしにちょーだい?」
甘ったるい声を発しながら、三人の女の子が小走りで私のもとへとやってきました。
今は、給食の時間。しかも今日は、デザートにプリンが出てくる特別な日。
でも、そういう日には必ずと言っていいほど、私におねだりをする子が現れるのです。
今まさに私のプリンを欲しがっている、桜木英里ちゃんはその代表格。
小学五年生にしては大人びているし、いつもおしゃれで盛り上げ上手。周りには常に人が集まり、アイドルのようにちやほやされている、私とは正反対の人気者です。
そんな英里ちゃんに、初めてデザートを要求されたのは三年生のころ。
クレープ生地で冷たいクリームを包んだ、私も大好きなデザートでしたが……英里ちゃんに食い下がられ、勢いに負けて譲ってしまったのです。
それ以来、デザートが出るたびに迫られるようになって……。
「ねえ、いいの? 駄目なの?」
「はっきりしてよ。英里が困ってるじゃん」
英里ちゃんの両脇を固めるお友達まで、わいわいと騒ぎ始めます。次々と浴びせられる言葉の波が、私の心にずしんと重く響きます。
ああ、また押し負けちゃう。
棘を含んだ言葉の数々に、胸がざわついて、息苦しくなって。
次第に耐えられなくなって、最後はいつも譲ってしまうのです。
そう、このように……。
「やった、ありがと!」
結局私は、また英里ちゃんにプリンを差し出してしまいました。
弾むような足取りで、英里ちゃんたちは自分の席へ戻っていきます。机の上にプリンを置くと、友達と楽しそうにおしゃべりを始めました。
「えへへ、結衣ってばやさし~」
漏れ聞こえてきた言葉が、再び私の心に影を落とします。
優しくなんかありません。ただ、英里ちゃんたちが怖いだけ。
実は一度、断ろうとしたことはあるのです。
あれは、三年生の冬のこと。
大好きなプリンをどうしても渡したくなくて、私は初めて英里ちゃんの要求を断りました。
その時の英里ちゃんの顔は、今でも思い出しただけで怖くなるほどで。
しかもその後、「結衣はケチ」だとか、「食い意地張ってる」だとか、クラスのみんなに言いふらし始めたのです。わざわざ、私に聞こえるような場所で……。
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