第1001飛行女子戦隊

4/6
前へ
/24ページ
次へ
   大蛇のように木の幹がのたくり、蔦が絡み付いている。分厚い葉を茂らせて勝ち誇っている植物たちが湯気の中からおぼろげに姿を見せる。息苦しいまでに濃密な緑色。そして湯気と熱気。 幸運にも一度も降りたことはないが越南のジャングルもこんな感じなのだろう、と碧は想像を巡らせた。床は大理石が敷き詰められ、石像の虎の口から湯が噴出している。常に新鮮な湯が供給される岩で囲まれた湯船は、ちょうど内地の温泉のようだった。あまり趣味がいいとは言えない風呂だが、隊員たちには好評だった。基地の従業員にも時々開放される。  碧は、シャワーのコックを捻って、頭から湯をかけ流す。肌を滑る湯の快い感触。  朝はそれくらいでいい。風呂に入ったらのぼせる。  この時間は誰もいないが、入浴時間は大騒ぎになる。様々な体格、肌の色の女たちが芋を洗うようにひしめく。周囲の亜熱帯植物をあいまって、なかなか妙な景色で壮観だった。  ちらりと紫苑を見る。  連れてきた双子の少女に、普段は縛っている美しい黒髪を洗わせ背中を流させている。正に召使を扱う王侯貴族そのものの態度だった。 「相変わらず凄い増槽ね」  気づいた紫苑が、碧の胸をながめてニヤリと口を歪める。 「ええ、投棄したいんですけど、それもかないません」  下手な冗談に紫苑は少し笑った。  碧は自分の身体があまり好きではなかった。空軍女子士官学校時代に、いいからかいのタネにされたし、今でも男の下品な目を引く。重いものをぶら下げているのは格好悪いと思う。女にしては妙にのっぽな癖に大きな乳房をつけているのはなんだか気恥ずかしい。  思わず紫苑を眺める。紫苑の少年のようなスラリとした白い身体の方が格好いい。流れるような黒髪と相俟って見惚れてしまう。 「碧は助平なのよ。こっち見てる」  視線を感じた紫苑がふざけた。  双子がくすくすと笑う。 「ほら、碧の髪も洗ってあげなさいよ。碧、いいでしょう」 「はい」 少女たちは、素直に頷き綺麗な日本語で「失礼します」と言って碧の髪を二人がかりで洗いだす。碧は紫苑と違って、たいていの女子士官や下士官、兵と同じく、髪を短くしていたから、そう手間はかからなかった。頭のマッサージはツボを心得ていて、なかなか気持ちよい。 「上手いでしょう。この娘たち」 「はい」 「でも、昨晩は私の方が上手だったと思うの」  紫苑の品の無い冗談に、双子の少女は弾けるような笑い声をあげた。碧は毎度のことだと思いながら、赤面するのと、何か気の利いた答えで返すのと、どちらが紫苑は喜ぶのだろうかと考えてしまった。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加