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ライカに見据えられているのにも気にせずに、タカイヌは続けた。
「辺境の地が野盗によって荒らされていることは、『鼠』から報告を受けていたので以前から知っていました。解決することで得られる対価が乏しいということで臣下たちがこの問題を放置していたことも……」
「それを知っていて王様も放置していた……。つまり、王様は辺境に住む民がどうなろうが構わない、と?」
「兄上にそう思われても仕方ありません。僕はすぐにでも討伐をと考えましたが……この国の王は独自で兵を動かす権限を持っていません。頭の固い臣下たちを何人も説得しなければならないのはとても骨が折れます。だから僕の討伐計画は頓挫するほかなかった……。ま、今となっては言い訳にしか聞こえませんよね」
「言い訳ですね」
「さすが兄上、手厳しい」
タカイヌは力無く笑ったが、その直後、真面目な顔でライカを見つめた。
「──だから、カンドル隊が欲しいのです。僕の意思ひとつで動かせる兵が。兄上たちが僕に力を貸してくれたら百人力です。救える民は増えるでしょう」
「カンドル隊に力を貸してほしいのは、倭国統一のためでもあるのでは?」
突然のライカの言葉に、タカイヌは少し驚いたように目を見張った。だが、目を逸らすことなく頷いた。
「──その通りです。兄上の情報網は素晴らしいですね。『鼠』にはできる限り秘密裏に動くように指示したのですが」
「──10年前のあの日、私が申し上げたことを覚えていますか?」
「ヤワジ伯父上のようにシスイに狙われたくなければ、倭国統一の考えは持たないように──ですね。もちろん覚えていますよ」
「ならば何故」
ライカが厳しい目でタカイヌを責めた。タカイヌはライカ相手に隠し事は無用と考え、まっすぐ向き直ってから口を開いた。
「僕が王座に就くとき、兄上があれほど強く忠告してくれたのに……申し訳ありません。他でもない兄上からの忠告でしたから、しばらくはそんな考えは持たないように──というよりも、王の本分を尽くすことに必死で考える暇もありませんでした。でも、王座からこの国を見ていると次第に思うようになりました……この国を、倭国全土を平安に導くには、倭国を統一するしかないと。僕が手出しできるのは所詮、この景ノ国の中のことだけですからね」
「しかし、先王と同じ目に遭ってもよいのですか? 10年前にも申し上げましたが、晩年、名君と名高かった先王が暴君に成り果てたのも、シスイによって心を操作されたから……果ては命まで落とすことになってもよいと?」
「僕はまだまだ死にたくありませんよ」
タカイヌがハハと笑いながら答えた。ライカが「今は冗談を言っている場合でない」と言わんばかりの目で睨んだので、タカイヌは真剣な目で答えた。
「本気で言っているんです。僕は民が幸せに暮らせるように見守っていきたいからまだ死ねない……。でもシスイが恐ろしいからといって、弱腰の政をするわけにもいかないんです。倭国統一は国同士のつまらない争いをなくすために、それに大陸からの侵略に対抗するために、必要なこと。つまり、倭国すべての民の幸せにつながるのです」
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