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タカイヌが「緊張するなあ……」と居心地悪そうにもぞもぞと体を動かす一方で、ライカは淡々と説明した。
「王様はすでに『鼠』を使って、いくつかの国に倭国統一を働きかけていますね。それと同じように、ある国を説き伏せてほしいのです」
「ある国、とは?」
「栖ノ国です」
その瞬間、タカイヌの顔が一瞬、強ばった。すぐにいつもの表情に緩んだが、苦笑いをしている。
「……兄上はやはり意地が悪いです。よりにもよって、最も攻略が難しいところを衝くとは」
「それ故、です。栖ノ国は小国ながらも聡明な王が支える強固な国。武力で脅しても動じないでしょう。そんな相手に王様がどう立ち向かうのか……見物です」
「もしかしてこの試し合い、僕の敗けじゃあないですか? ずるいですよ、兄上……僕はこんな勝負事しなくても、もともとカンドル隊のことを信頼してるのに」
「泣き言はお止めに。王様が考えておられる倭国統一が並大抵のことではないと分かっておいででしょう? それに倭国統一を考えているのなら、いつかは栖ノ国も口説き落とさなくてはいけない相手ですよ」
「はい……そうですね……すべて兄上のおっしゃる通りです」
タカイヌはしゅんと肩を落とした。ライカも少し厳しく言い過ぎたと思ったのか、言い足した。
「言い忘れましたが、この試し合いは勝った負けたの勝負事ではありません。たとえ王様が栖王を説き伏せられなくても、その経緯を見て私が敬服させられたなら、それで王様はカンドル隊が仕えるに値する人物だという証明になるでしょう。……そうですね……王様の意欲を駆り立てて差し上げましょうか」
ライカが少し考えてから口を開いた。すべてを持つ王であるこの男が喜びそうなことと言えば……。
「もし栖王を説き伏せることができたのなら、この私があなたの言うことをひとつ、聞いてあげましょう」
「えっ!!」
タカイヌが驚いて顔を上げた。
「兄上が? な、何でも、ですか?」
「はい。これで少しはやる気が出てきたようですね」
「もちろんですよ! ……これは何が何でも、やらなければいけなくなってきましたね」
栖王を落とす算段でも考え始めているのか、すでにタカイヌは何やら考え込んでいる。
それを見て、ライカが「しめた」と思った。幼い頃からの付き合いの中、タカイヌはいつもライカの子分のような存在だった。そんな彼が、兄分のライカを顎で使う絶好の機会を得られるのだ。頑張らないはずがない。
「私の方は以上です。王様はカンドル隊をどのようにお試しになりますか?」
「そうですね……」
ライカに問われ、タカイヌはしばらく天井を仰ぎながら考えた。やがて顔を下ろし、ニヤッと笑って口を開いた。
「では、こうしましょう──」
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