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対談
「お待ちしておりました、ライカさま。王様は貴方様がおいでになるのを大層楽しみにしていらっしゃいましたよ」
内官がにこやかにそう言うと、後ろの扉を開けた。扉の向こう、広々とした部屋の奥では、一人の若い男が机に向かって座っている。ここは王の執務室。つまり、彼は王──景ノ国の王だ。
「よくいらっしゃいました、兄上!」
青年王──タカイヌはライカの姿を見つけると、顔をパッと明るくして立ち上がった。机の上に積み重なった文書の山を通り過ぎて、ライカに駆け寄ってくる。
そんな王の姿を見て、ライカは思いっきり顔をしかめた。
「……何度も申し上げますが、私にそのような言葉遣いをしてはなりません。今、あなたはこの国の王なのですから」
「……おっと、失礼。あなたが相手だとついつい昔からの癖で。でも別に構わないでしょう? 今は他に誰もいないのだから」
タカイヌはへらへらと笑うと、頭を掻いた。もともと柔和な顔つきが、笑うと一層柔らかくなる。
一方、ライカの顔の厳しさは少しも揺るがない。机の方に一瞬目をやってから、王を諌めた。
「それに、わざわざ立っての出迎えも要りません。文書があんなに溜まっているではないですか。いいから早くお座りになって政務の続きを。私の話はそのついでに聞いてくだされば結構です」
「でもせっかく兄上が来てくださったのに……。今までは僕が呼ばないと来られなかったのに、今回は兄上の方からと聞いて楽しみにしていたんですよ?」
タカイヌは拗ねたようにつぶやいたが、ライカの一睨み──言葉遣いについても、文書の山についても、二度も言わせるなと言わんばかりの眼だ──で縮み上がった。
「はいっ、ただいま仕事に戻りますっ」
駆け足で机に戻り、手元の文書に目を通し始めたタカイヌに、ライカは唐突に口を開いた。
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