プリズム

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「ねえ、覚えてる?」  私の中の誰かが、そっと私に問いかける。 あたたかくて、仄暗い海の中にたゆたう意識の中で、その声に耳を傾ける。  あなたのことは知らないけれど、あなたのことを知っている気がするの。なぜかしら。  あなたはわたし。問いかけているのはあなた? それとも私...?  目覚めるといつもと同じ天井が見える。  枕元の時計が、規則的な秒針の音を刻む。  まるで忘れることを許さないかのように、幼い頃から繰り返し見てきた夢。  灰色の中にひそむ誰かの影が、今日も私に付きまとうのだ。  顔を洗っても、食事をしても、会話をしても、着替えるときも、勉強をしていても。  ふと、自分以外の意識に入ってしまうような。心と体が解離してしまうような。  私が、“誰か”になってしまうような感覚が。  それは、あなただったかもしれない私。  それは、私だったかもしれないあなた。  お腹の中では二人でひとつだった私たち。  今では一人の私。  “わたし”を私のモノにするには、どうすればいいのだろう。  問いかけるには遠く、忘れるには近い。  真綿を噛むような日々を過ごし、寄る辺のない風船のごとく生きている私が。  地を踏みしめて歩くには、どうすればいいのだろう。 「ねえ、覚えている?」  覚えているよ。  忘れていないよ。  “ふたり”だったこと。
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