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「ねえ、覚えてる?見知らぬ人に親切にして瑛太くんって本当にいい子だね。大きくなっても他人の気持ちになって考えられるってとてもいいことだよ。でもそのせいで自分が損するなんてお人好しだよ。しかも幽霊にまでお人好しにならなくていいんだよ」
確か首吊り死体の形をした幽霊はそんなことを言った。生きていたときは太陽に反射するガラスのように輝いていた紗理奈さん……。僕は過去に想いを馳せる。
僕が小学五年生のときだ。朝から汗が滴り落ちる夏だった。たしか月曜日だったと思う。月曜日はいつも家を出るのが遅かった。僕は朝の七時半に二階建て一軒家の家を出た。都内に住んでいて一戸建ては贅沢だが、僕にはお兄ちゃんがいるから親は建売を買った。家を出たあと、新品のスニーカーで急いで歩く。学校に行くためだ。住宅街を歩いていると、白い自転車で転んでいるセーラー服の高校生くらいの女の子に会った。僕は近づく。まつ毛がふさふさで長く目の大きな子だった。
「大丈夫?誰か大人を呼んだ方がいい?」
「ううん。大袈裟にしたくない。でも有難う」
「血が出てるね。僕のハンカチでよかったら使ってよ」
僕はポケットからブルーのチェックのハンカチを出して、もう血に染まっている女の子のハンカチと換えた。
「ハンカチ汚れちゃうよ」
「いいって。これくらいあげるよ」
僕は女の子の膝を丁寧に拭いてあげた。砂が赤い傷に滲みて痛そうだった。道路にはアスファルトの上に血が落ちていて流血した量が多いことが分かった。砂はハンカチだけでは上手く取れず、僕は困った。
「ばい菌が入っちゃうかな。ちょっと待ってて」
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