お人好し

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 それから数年が経った。僕は高校二年生になる。お母さんに似た垂れ目とお父さんに似た高い鼻だ。自分では気に入っている。女の子から告白されることもある。  今は三時間目、数学の授業を受けている。背中をつんつん叩かれ、後ろを振り返った。後ろの席の女の子がノートを破いて折ったのか手紙を渡してきた。表に「瑛太くんへ」と書いてある。この学校は共学で男女交互に席が並んでいる。後ろの女の子が書いたものかと思って手紙を人差し指で指した後、女の子を指したが、女の子は首を振る。どうやら回ってきた手紙らしい。僕は四角く無造作に折った手紙を広げる。汚い字で殴り書きがあった。 『放課後に四階のトイレに来てよ』  いったい誰からだろう。僕宛ての手紙なんだろうが差出人の名前がない。(いぶかし)しみながら手紙を丸めて机の隅に置いた。数学の教師は気づいているのかいないのか三角関数を説明している。五分くらいしたらまた後ろの女の子に背中をつんつん叩かれた。僕は後ろを振り返る。女の子は無言でさっきと同じような手紙を差し出した。僕は受け取ってそれを広げる。 『瑛太くん、待ってるよ』  どうやら僕を呼び出す手紙らしい。放課後か。部活に間に合うかな。いやいや、部活の心配より四階のトイレはって噂の場所だ。この学校は一年生が一階、二年生が二階、三年生が三階というように下から学年があがる仕組みになっている。職員室や音楽室、化学室などは別棟(べつむね)だ。呼び出された四階は視聴覚室だとか教師が使う会議室があってあまり使われていない。だから四階に行く人は滅多にいない。
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