お人好し

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 四階に上がると、誰も人が居なくて静まり返っていた。会議室も視聴覚室も使ってないのだろう。廊下にも誰一人居なかった。手紙の主が誰なのか分からないがもう来てトイレの中に居るんだろうか。それともまだ来ていないのだろうか。僕は男子トイレの前に立った。どうしよう、中に入ってみようか。僕は勇気を出してドアを開けて中を覗き込んだ。 「誰かいるのか?僕は瑛太。手紙で僕を呼び出しただろう」  声を掛けてみたが返事がない。悪戯だったのだろうか。ふざけて怖がらせるために。僕は踵を返して帰ろうとした。ん、でも待てよ。まだ呼び出した子が来ていないという可能性もある。僕は白い壁の廊下で辺りを見回した。  ガタ、ガタ、ガタ、ガタ  突然にトイレの中から物音がした。なんだ、もう来ているのか。なんでさっき返事をしてくれなかったのだろう。僕は怖かったので片目を瞑りながらもう一度ドアを開ける。背中に衝撃が走った。  ドン  誰かに背中を押されたようだ。僕はトイレの中に弾き飛ばされた。小便器が三つと個室が二つ。小さな曇りガラスがあるだけの薄暗い室内に僕は恐怖で硬直する。個室に向かって言う。 「誰かいるのか?」  返事はない。じゃあさっきの物音はなんだったのだろう。僕はトイレから逃げ出そうとする。だが、ドアが開かなくなっていた。誰かがふざけて向こう側からドアを押さえているのだろうか。僕は大声を出した。 「おーい、ドアを開けろよ。頼むよ」  僕はステンレスのノブを上下に強く揺さぶった。だがドアはびくともしない。どうしよう。閉じ込められた。冗談じゃない。よりによってこんなところに。僕は下唇を噛み締めた。
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