お人好し

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「首吊りってね、苦しいようだけど、そんなことないの。だから瑛太くんを誘ってみたんだよ。瑛太くんだけには同じ死に方を体験して貰いたかったの」  首筋を誰かがなぞってくる感触がある。体が総毛だつ。逃げ出したくてドアノブに手を掛けるがドアは頑として開かない。どうしよう。首筋をなぞった指は頬に移って白い指がちらちら見える。僕は卒倒しそうだ。このままではいけない。そうだ。掃除に三年生が来る可能性がある。僕は目をギュッと瞑って耐えた。だが時間はのんびりと経過するだけだ。 「ねえ、ねえ、こっち向きなよ」  紗理奈と名乗った女の子の声が真後ろから聞こえる。紗理奈が誰なのか確かめたくなった。僕は恐々と振り返った。  個室のドアに白目を剥いて舌を出した首吊り死体がぶら下がっていた。 「う、うわー」  僕は腰が抜けたようにその場にしりもちをつく。 「あの世においで、お兄ちゃんが駄目だったから瑛太くんにしたんじゃないの。瑛太くん、彼女だって作らないし、友達だって親友はいないでしょ。生きていても詰まらないよ」  死体がこっちをハッと見たかと思うとだらりと出ていた舌を引っ込ませて大きく口を歪ませて喋る。笑っているようにも見えた。それにしても怜太ってやっぱり……。
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