BLハーレムゲームの攻略対象者に転生したけど、何故か総受けの主人公に襲われる話

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BLハーレムゲームの攻略対象者に転生したけど、何故か総受けの主人公に襲われる話

 困ったことになった。  現実世界でしがないサラリーマンだった俺は、女の子達の前でカッコつけようとして、イッキ飲みしてそのままぶっ倒れて死んでしまうというアホすぎる最後を迎えた。  それが困ったことではない。  いや、困ったことではあるけどもう死んでるから取り返しがつかない。  そうじゃなくてその後だ。  気がつくと眩しい光の中で、俺は小さな玉になって浮遊していた。  そして声が聞こえてきた。  その声によると、俺があまりにお粗末すぎる最後だったのが、彼らの中でウケたらしい。  フザけんなって話だけど、なかなか面白かったから、もう一度ちゃんと生きるチャンスをあげると言われた。  赤ん坊からやり直すなんて面倒だと言ったら、それなりに成長したところからスタートさせてやると言われたので喜んでじゃ頼むと言った。  どんな人生がいいかと言われたので、そりゃたくさんの美女に囲まれてウハウハするようなハーレムがいいと言ったら、なんだそれは?と話が通じなかった。  とりあえずそれっぽいのを用意したと言われて、光の中に小さな穴が二つ空いた。  どちらか好きな方を選べと言われた。両方よくあるゲームの異世界を選んで、だいたいの世界観は看板に書かれているが、後は好きに生きていいぞと言われた。  穴の上にはざっくりとした説明の看板が付いていた。  一つはイケメン王子に転生、ハーレム制度なんてやめて、一人の女の子と結ばれる堅実なお話と説明が書かれていた。  もう一つは、ハーレムゲームに出てくるイケメン貴族の男子に転生。攻略方法の説明書おまけ付き、となっていた。  俺は悩んだ。  王子としてハーレム制度をやめないで、美女を集めて俺の酒池肉林の王国を作るのも悪くないと思ったが、いかんせん立場が高すぎる。責任重大だし、一歩間違えば反乱を起こされて首を切られるかもしれない。頭の悪い俺にはまず政治なんて無理だ。  それならば、もともとハーレムゲームの下地があって、イケメンの貴族で、可愛い女の子キャラを次々と落としていく方が楽しいかもしれないと思ったのだ。  悩んだ末に玉になっている俺は二番目の穴に飛び込んだ。というか近づいたら有無も言わさず吸い込まれてしまった。  そして、今に至る。  転生後の俺は説明通り、西洋風の異世界で子爵家の令息、アリアス・イエロールーンとして生まれ変わった。  しかし、事は思い通りにはいかなかった。  ゲームの世界と説明があった通り、穴に入って光に包まれた俺は気がつくと、自分の部屋のベッドの中で寝ていて、ご丁寧に世界の概要が書かれた所謂ゲームの攻略本みたいなものを胸に抱えていた。  なんて素晴らしい準備がされた転生だと感動して泣きそうになりながら、攻略本の表紙を見た俺は、別の意味で号泣した。  攻略本のタイトルは、BLハーレムゲーム・イケメンのキメキメパラダイスと書かれていた。  三度見くらいして、恐ろしくなって思わずベッドから落としてしまったほどだ。  確かに世界の管理人みたいなヤツら、神なのか知らないけど、適当に選んだみたいなことを言っていた。まさかの逆ハーレム?いや、逆でもないのか、男同士のハーレムゲームとかありえないだろうと俺は震える手で転がった攻略本をもう一度手に取った。  例えこれがBLゲームだとしても、好きに生きていいと言われた。  主要な登場人物とかはどうでもいい。脇役キャラには妹とかで可愛い女の子がいてもいいはずだ。  そこに望みをかけて一頁目の概要の項目を読んだ俺は完全に思考が停止した。  そこには目を疑うような一文が記されていた。  ¨この物語は女性が絶滅した異世界が舞台で、主人公がイケメンの攻略対象者と恋愛を繰り広げる18禁ラブゲームです。  一人と愛を貫いてもよし、ハーレムを作ってたくさんの男達と愛を交わしてもよし、全ては貴方次第です¨  ぜぜぜぜぜぜ絶滅ーーーー!!!  その二文字が頭を駆け巡ってそこで俺は泡を吹いて転生初日、床に転がって気絶した。  しかし、転生してしまったので、普通に目が覚めれば新しい一日は嫌でも始まる。  目が覚めたら、気絶する前と全く同じ光景に俺は絶望した。  やはり、神なんていなかった。もしくは、また一杯やりながら呑気に眺めてやがるに違いない。  もう怒りで頭が爆発しそうだった。  絶滅なんて俺にとっては恐竜レベルの話。  それがなぜか、女子。俺がハーレムやるはずだった女子が、俺が異世界に降り立った瞬間には既に絶滅。  いや、子孫とかどう残してんの、なんてどうでもいい素朴な疑問を放り投げて、俺は泣きじゃくった。  おいおい泣いていたら、ノックの音が聞こえて何人か人が部屋に入ってきた。  みんな坊っちゃん大丈夫ですかなんて聞いてくる。どうやら使用人のようだ。  三人いて全員メイド服を着ているが、全員ムキムキの男達なので死ぬほど似合っていない。  これは製作者のお遊びなんだろう。メイド服を汚された気分でちっとも笑えない。クソみたいなセンスも最悪のゲームだ。  絶対売れなくてお蔵入りのやつだろう。だいたいどこから引っ張り出してきたんだと頭を抱えた。  半分意識が死んでいる状態だったが、メイド男達は仕事をしないといけないのだろう。てきぱきとベッドを整えて、俺の着替えを済ませ、朝食の用意ができたらまた来ますと言って出ていった。  もうこの時点で詰んでいる俺の第二の人生だが、とにかく自分の状況だけでも把握しようと、俺は攻略本を片手に鏡の前に座った、  自分の容姿を観察して攻略本の登場人物と照らし合わせると合致する人物がいた。  派手な金色の柔らかい髪の毛は肩まで無造作に伸びている。雨の日とかどうなるか恐ろしいなんとも手入れが大変そうな髪だ。  瞳は切れ長の紫色で目鼻立ちは整っている。ピンとした鼻筋に、薄いが柔らかそうな唇。  イケメン設定なので白い肌と整った顔はまぁそういうものだろうと理解できる。  しかしなんだかやけに色気のある顔だなと思いながら攻略本を見た俺はこのキャラの設定に驚愕する。  まず第一に俺は主人公ではない。  主人公はデューク・ルートレッドという赤髪が特徴的な17歳の平民の男。彼が貴族の学園に入学するところからゲームが始まる。  この主人公デューク、かなりイケメンなのだが、どうやら彼は総受けという設定で、つまりみんなから掘られる……、抱かれる設定らしい。  俺からしたら御愁傷様という人物なのだが、男にしては可愛らしい容姿を想像していたが、意外と受けだけどしっかり男らしいタイプだった。どうやら製作陣は可愛い系を嫌っているらしい。  そして攻略対象者はもちろん全員攻めだ。絵に載っているヤツらはみんなギラギラした目で、肉食獣を思わせるような無駄に強そうな連中で固められている。  そしていよいよ俺だが、俺は攻略対象者の一人に位置していた。  アリアス・イエロールーン、年齢は22歳で主人公が通う学園の保健医らしい。  男子校の保健医なんて夢も希望もない仕事だ。早速転職しようと心に決める。  しかも設定を読めば読むほど震えてきた。  アリアスは類い稀なる美貌を持つ綺麗系攻め。  保健医でありながら、セックス大好きのヤリチン。毎日好みの男子生徒をベッドに連れ込んでヤりまくりのセクシー担当インラン先生。  入学してきた主人公に一目惚れして、初日から無理やり保健室に連れ込んでキスして誘惑してくる。  攻略は難易度低レベル。とにかく保健室に通いつめて、アリアスの誘惑に耐えながら焦らす。  そうすると簡単には落ちない主人公にアリアスの好感度は上がっていき、マックスになると告白してくるのでそこでやっと受け入れて攻略成功。これで先生は貴方の虜。  裸に白衣を着て恍惚の表情、君を食べたいという文字がデカデカと書かれている完全な変態野郎だった。  俺は攻略本を投げつけてまた布団をかぶってまた泣いた。  現世なら未成年を襲う犯罪者だ。  ゲームの世界だからって、いくらなんでもこんな男に転生なんてひどすぎる。  転がっている攻略本の開いたページに、剣を持ってカッコよく描かれている人物が見えた。確か同級生で王国一の剣の腕を持つ男、主人公と剣を交えながら一緒に高みを目指す、とかいう急に少年漫画かよっていう設定のヤツだ。  なぜだ……なぜ俺はヤツに転生しなかったんだ……。女の子がいないならせめて、魔物とかをチートでブッ倒す冒険の道を生きたかった……。なぜ、ヤるしか頭にないセクシー保健医。  それならば、家出して好き勝手に生きようと決めたが、この世界はなかなか厄介なところだった。  俺は貴族であるが、子爵家の三男。それなりに財産のある家だが、そのほとんどは長男が恩恵を受けるのみで、三男なんて平民並みの扱い。  一度職業を決めると、転職するのは至難の技。紹介がどうとか人脈がどうとか天下りがなんとか、つまり保健医を辞めると、まったくコネのない俺は悲しいかな無職になる。  この世界の知識もなく、無職、力もなく、もらえる金もない。しばらく状況を考えたが、とりあえず現状維持で保留にすることにした。  働きながら、人脈を作るなりなんなりしてやっていこうと決めた。  そして、いよいよ俺としては初出勤。ゲーム上では入学式の朝が始まった。 「アリアス先生、どちらに行かれるのですか?」  送迎の馬車に乗って、とりあえず学校らしき場所に着いた俺は、どこに行っていいかわからず校内をうろうろしていた。  転生前の記憶はほとんどない。何となくこんな場所だったかなくらいの薄い記憶だ。  そんな挙動不審な俺に、人の良さそうな顔をした男が話しかけてきた。  制服でないところからすると同僚らしいが、名前はさっぱり出てこない。 「もうすぐ入学式が始まりますよ。遅れるとさすがに教頭に怒られると思いますけど」 「ああ、すみません。天気が良かったので朝の散歩を…………」 「相変わらずですねぇ……。あまり問題は起こさないでくださいよ。ただでさえ、尻拭いさせられるのはこっちなんですから」  どうやら、嫌みを言われているらしいが、こんなもの元サラリーマンの俺からしたら挨拶みたいなものだ。  いつもすみませんと笑ってごまかしたら、変な生き物を見るような目で見られた。どうやら、キャラが違うらしい。  知らねーよと思いながら、さっさと入学式の会場に向かって歩き出した。人が集まっているのでだいたい場所は分かっていた。  会場に入り教職員用の席を探すと、自分の名前が書いてある椅子を見つけたのでそこに座った。  この学園では16歳から18歳までの貴族のお坊っちゃんが全寮制で一年間みっちり勉強する。つまりみんな一斉に入学して一年で生徒が卒業して全部入れ替わる。今までの俺を知らない生徒達というのはありがたかった。  なぜなら変態保健医のアリアスは、生徒を食い散らかしている設定なので、今までの生徒達なら何を言われるか分からない。  よく訴えられなかったなと不思議に思うが、もうそんなリスクは冒せない。  全然知らないヤツらなら好都合だった。  見渡すと当たり前のように思春期の男しかいない。可愛い女子高生の存在しないこの世界など壊れてしまえと思いながら、校長の挨拶がダルすぎて攻略本を見ながらチラチラと登場人物の確認をした。  まず、主人公デュークだが、すぐに目についた。燃えるような赤髪と緑の瞳で、遠目からでもあれがそうかと気がついた。  総受けとは思えないほど背が高く、男らしい引き締まった顔立ちでとにかく目立っていた。  自信に溢れた顔で、とにかく生き生きとしている力強い目が印象的だ。  次にインテリ枠なのだろう、銀縁の眼鏡をかけた色白で水色の髪をした男、ルナソル・ブルーム。連中の中では一番ひょろっとしているが、それでも俺より逞しそうに見える。  同級生はラスト、伝説の剣士の息子、ライジン・グリーンウェイ。長髪だが緑の髪の毛を後ろで束ねている。睨みだけで人を殺せそうな厳つい顔をしていて、俺が転生したかった男だ。  剣豪の才を受け継いで、まだ10代であるが太い腕にもりもりの筋肉が付いていて、一振りで十人は倒す凄腕らしい。  椅子が小さく見えるくらい、ちょこんと座っている。主人公とは幼なじみらしい。どうでもいいけど。  最後に教師陣にも攻略対象者がもう一人いる、ジェラルド・ブラック。もうだいたい分かってきたが髪の色が名前に反映されている。  俺は自分の斜め前に座っている男に目を向けた。  黒髪に赤い目、浅黒い肌、整いすぎている顔に大きな口はもう獣にしか見えない。  筋肉質で逞しい腕が見える。きっと立ち上がったら凄い威圧感を感じるだろう。  ジェラルドは魔法学の教師でバリバリの攻めという容姿だ。男でもクラクラするほどのむせそうな大人の色気を放っている。  ちなみに彼はアリアスとは犬猿の仲で、主人公を巡っていつも争いが勃発する、らしい。絶対やんないけど。  攻略本をチラ見しながらの観察によって、実際の登場人物達の顔や名前を確認できた。  本にはどういう人物かや出没場所、攻略するためのポイントなど詳しく書いてあったが、いらない情報を頭に入れる必要はない。  仕事上覚えなければいけないことが山ほどあって、今はそちらの方で頭がいっぱいだった。 「アリアス先生、あなたの番ですよ」  ぼっーとしていて、周りの状況など全く見ていなかった俺が、ふぁいと気の抜けた返事をしたら、シーンと静かになった会場にゴホンという咳払いの音が響いた。  どうやら咳払いの主は鬼の教頭と呼ばれる、パンチパーマの厳ついジジィ教師だった。  そして会場全員の視線が俺に注がれているのに気がついた。  どうやら、この凍りついた雰囲気で先生方から一言自己紹介というやつかもしれない。俺は慌てて立ち上がったが、何を言ったらいいのか頭が真っ白になった。  白すぎてこのまま存在も消えてしまいたいと思っていたら、斜め前の席に座っているジェラルドと目が合った。  試しに目線で助けてくれと送ってみたら、呆れたような顔をして目を細めたジェラルドだったが、その口元が小さく動いた。名前、所属、祝いの言葉と微かに聞こえてきて、俺は慌ててその内容で無難なことを言った。  会場からパチパチとどうでもよさそうな拍手が返ってきて、俺はなんとかこのピンチを脱出することに成功したらしい。  ジェラルドとは仲が良くないらしいが、意外といいやつなのかもしれないと思いながら残りの式典をぼんやりしかながら過ごした。  そういえば攻略本によると、俺と主人公の出会いは入学式の後、桜を見ながら物憂げに立っている主人公を見て、俺が一目惚れして抱きつくことになっているらしい。アホかと思いながら入学式が終わったらさっさと職員室へ戻ることにした。  先に歩く背中に先程助けてくれたジェラルドを見つけたので、俺は一応礼を言っておこうと近づいた。  それにしても嫌味なくらいデカい背中だ。 「どうも、ジェラルド先生。先程はありがとうございました。助かりました」  サラリーマン時代に培った営業スマイルでお礼を言うと、ジェラルドは口元をピクピクと動かしながら嫌そうな顔をした。 「お‥…お前、何か企んでいるのか?」  お礼を言ったのにひどい言われようだ。もともと仲が悪いなら仕方がないのかもしれない。現実世界の頃の俺は周りと適当に上手くやるタイプだった。争いとか苦手だし、年上に可愛がられて損はない。こいつは高位の貴族の息子らしいから、もしかしたら、俺に素敵なコネクションを与えてくれるかもしれない。プライドなんかよりそういう根回しを大事に考えるタイプなのだ。  ジェラルドは35歳、俺より年上なので多少下手に出る必要があると考えた。 「最近心を入れ替えたんですよ。そろそろ大人になろうと思って‥‥。今まで生意気言ってすみませんでした。今さらこんな事を言うのは失礼かもしれませんが先輩としてご指導いただけると嬉しいです」  元営業を舐めるなよと、技をフル活用して先輩を慕う後輩の設定で持ち上げてやった。これで、うるさく言われることもないし、金のなる木を紹介してくれるかもしれない。  偉そうによかろうと返してくるかと思いきや、ジェラルドは無言でジッと俺を見てきた。そりゃ今までと違うだろうが、上手くやった方がお互いのためにいいだろうと俺も目を合わせてニカっと調子良く笑ってみた。 「な‥‥お前、本当にアリアスか?嘘だろ‥‥やけにお前が‥‥かわ‥‥‥」  何か言いかけたジェラルドだったが、慌てて首を振って先にズンズン歩いて行ってしまった。  話している最中に勝手に去るとはずいぶんと気まぐれなやつらしい。まぁどうでもいいけど。  そのまま職員室に行って、いきなり何個か会議に招集されて、訳の分からないままとりあえず座って過ごし、ヘトヘトになりながら保健室へ入った。  保健室は俺の持ち場で、普段は職員室に行くことは少ないみたいなのでこれは気が楽だと思った。  この世界の保健医は資格みたいなのはなく、手順書を見ながらほとんどのことが対処できるらしい。  かと言って何も知識がないのもおかしいので、今日は残りの時間、手順書を見ながら勉強することにした。  小一時間集中していたが、ふと何か人の気配がして俺は顔を上げた。  ぼんやり見渡すと三つ並んだベッドの一つにカーテンが引かれていて、もしかしたら誰かいるのかもしれないと確認しようかと立ち上がった瞬間、ガラガラと大きな音がして入り口のドアが開けられた。 「先生!アリアス先生!」 「うっ‥‥あっはい!うわぁぁ!!」  よく分からないが生徒が一人飛び込んできて、いきなり俺に抱きついてきた。  小柄でふわふわとした髪の生徒だ。俺を見上げてきたが、潤んだ瞳をして女の子と見間違うくらいの可愛さだ。ドキンと心臓が鳴ったが、絶滅を思い出して冷静さを取り戻した。 「どうしたのかな?ここは保健室だよ。体調でも悪いのかな?」 「‥‥‥僕、去年卒業したマイケルの弟でイアンといいます。マイケルからすごい素敵な先生がいるって聞いて‥‥‥、お願いです。僕‥‥寂しくて‥‥僕を抱いてください」  現実世界でもそんな台詞を言われたことなどなかった。いーだろ、ヤラせてくれと言ってフラれたことはある。まさか俺にそんな瞬間がと目眩がしたが、見た目は申し分ないけど男だということが俺の理性を悲しいくらいに働かせてくれた。 「なにを聞いたか知らないけどだめだよ。俺は教師で君は生徒。ちゃんとお互い守るべきものは守らないと‥‥」  優しく諭すように言葉を投げかけると、イアンくんは一瞬大人しく目を伏せた。  しかし、また急にグワッと血走った目になって、俺をベッドに引っ張って押し倒してきた。か弱そうな体のどこにそんな力があるのかと驚いたが、なんと馬乗りになって俺のアソコを揉みしだき始めた。 「ばっ‥‥!なっなっなにするんだ!!ダメだって!やめろ!」 「ふん!清純ぶって!知っているんだから淫乱教師だってことは!ほら、下から突っ込ませてやるから、さっさと、おっ立てろよ!」 「やめっ‥‥やめてくれ!ダメだって!はっはなせ‥‥!」  溜まってんのか知らないが、イアンはどうやらヤリたくてたまらないらしい。  正直可愛いからちょっとグラっときたけど、男は後ろの孔に突っ込まないといけない。それを想像したらとてもできないと恐ろしくなった。 「‥‥‥あれ?おかしいな‥‥‥全然硬くならないや‥‥‥、ひょっとして先生‥‥インポなの?」 「だぁっ!!そんなワケあるか!ふざけんなぁ!!」  いくら年上とはいえ、俺も若いのだからインポなわけがない。そこまで考えて俺はハッとした。  女の子がいないのだから、精神的におかしいし性欲を感じることなく、もしかしたらこのまま俺の息子ちゃんは一生天を向くことはないかもしれない。 「いや‥‥いやだ‥‥、そっそんなの‥‥」  ショックを受けた俺は気がついたらぼろぼろと泣いていた。  男に押し倒されて泣くなんてもう終わりだと思っていたら、隣のベッドからシャーっとカーテンが勢いよく開けられる音がした。 「‥‥‥おい、うるさいぞ。気持ちよく寝ていたのに」  低くて腹に響くような声がして目を向けると、そこには鮮やかな赤い色があった。 「お前、なに教師襲ってんだよ。入学初日に退学になりたいのか?」 「僕は‥‥ただ、うっ噂を‥‥‥」 「噂が好きなら俺の噂も知ってんだろ?俺の眠りを妨げたからには、腕一本くらいは覚悟しろよ」 「ヒッ!!ごっ‥‥ごめんなさい!殺さないで!!」  真っ青になったイアンは後ろに飛び退いて、身軽な勢いそのまま、ダッシュで保健室から逃げて行った。  まさかこいつに助けられるとは思わなかった。桜を物憂げに眺めるのが終わったのか、どこかのタイミングで勝手にベッドに入って寝ていたらしい。  燃えるような赤い髪と緑のギラギラとした瞳の主人公が隣のベッドに座っていた。  彫刻のような整った顔にはまだ眠そうな気配があるが、イアンが去ったドアを見た後、俺の方をギロリと見てきた。  こいつが総受けって、製作陣はターゲット層の設定がおかしすぎる。 「教師のくせに、なんで生徒に押し倒されて泣いてんだよ。これくらい上手く対処できなくてどうするんだ?」  機嫌の悪そうなオーラをガンガン発しながら俺を睨みつけてくるのだが、言っていることはもっともだった。 「‥‥…本当、そうだよね。ごめん‥‥ありがとう」  上手く笑って大人の対応を見せてやろうと思ったのに、実際は涙の残りが溢れてきて、ポロポロと落ちていった。  ハンカチはないかと慌てていたら、衣摺れの音がして、前に人が立つ気配がした。 「‥‥‥これ、使えよ」  絹の高級そうなハンカチが俺の顔の前に差し出された。  さすがお坊ちゃま用意がいいなと思ったが、ありがたく使わせてもらうことにした。  それに不器用な言い方はなんだか可愛らしく思えた。 「ありがとう‥‥、君、優しいね」  さすがいいやつだな主人公と思いながら、ハンカチで目元を拭った後、にっこりと笑顔でお礼を返した。  ガタンと音を鳴らして後ろに下がった主人公は、髪の毛に負けないような真っ赤な顔をしていた。 「え?大丈夫?」 「あっ‥‥俺、帰るから…!」  またこいつもよく分からないが、急に慌てたように去っていってしまった。  まったく気まぐれなヤツが多い世界だ。  とにかく、俺の転生生活のスタートは、色々あったがなんとかやってのけた、と思う。  イアンの一件は俺の中で消し去った。仕事も慣れれば上手くいきそうだ。  男のハーレムとかアホみたいな世界なんて俺には関係ない。職場ではひたすら平穏を目指して大人しく生きようと心に決めた。  はずだったのだが‥‥‥。 「なんでお前はいつもここにいるんだ‥‥」 「ここは保健室だろう。俺は病弱なんだ」  俺の聖域に毎日入り込んでいるのは、総受けで男達とのラブゲームに忙しいはずの主人公だ。  ゲームでは確かに俺に会いに来るのが攻略ルートだが、それは俺が来て来てとうるさく誘ってやっと来るみたいな前提の話がある。そんなことは一切ない!むしろ、ここにサボりに来るなと毎日怒鳴りつけているのに、この男、主人公デュークはふざけた顔をしていつもベッドで勝手に寝てしまう。 「そんな健康そうな体してなにが病弱だ!いい加減にしろ!」  初日にここで助けられて以来、助けられた方なのに何故か俺が懐かれてしまい、暇を見つけるとサボりに来ているらしい。  お前こんなところで寝てないでみんなに掘られて来いよという言葉をぐっと飲み込んで俺は寝ているデュークの横に立った。耳でも引っ張って起こしてやろうとしたのだ。 「アリアス先生といると居心地が良いんだよ。俺の噂とか聞いても平気な顔しているし、度胸があるんだかないんだか分からないところもまたいいんだ」  なんだそれはと言いながら、俺は目をつぶっているデュークの整った男らしい顔を見つめた。  貴族の父と平民の母親との間に生まれたデュークは、周りからひどい扱いを受けて育った。  しかし、貴族だけが持つと言われている魔力を発動して、しかもそれが公爵家特有の属性のナントカで認められたデュークは公爵家に引き取られる。  しかし、どこへ行っても身分違いだとバカにされていじめられたので、ある日強い力を使っていじめてきたヤツらを半殺しにしてしまう。  それ以来、貴族の中では腫れ物に触るような扱いで、みんな距離を置いて接している、という設定だったと思い出した。  もしかしたら、教室でも嫌な思いをしているのかもしれない。  まあ、ゲームでは設定だが、実際にこいつは経験してきたわけで、確かに辛い思いをしたんだなと思ったらつい可哀そうに思えてしまった。 「……気にするなってのは無理があるかもしれないが、辛い時は無理しないで吐き出していけ。俺は大した人間じゃないが、話くらい聞いてやることはできる」 「‥‥‥アリアス先生」  悲しげに見えたデュークの頭をぽんぽんと優しく撫でてやった。デカい体でちっとも可愛くはないのに、なんだかやけに可愛く思えてしまった。  するとデュークは一瞬思い詰めたような顔をした後、ぐっと俺の腕を掴んできた。 「……へ?何するん‥‥」 「アリアス先生、‥…だめだ。俺……もう我慢できない!」  がっと物凄い力で引っ張られて、気がつくと俺はベッドの上に寝ていた。そして俺の上にはデュークが覆い被さっていた。  先日のイアンの時と同じ状況だが、明らかに体格が違いすぎる。デュークは重いし硬いし苦しいくらいだった。 「ばっ…なにしてんだ!バカはやめろ‥‥」 「……先生、気づいてんだろ、俺の気持ち……。先生が欲しくてたまらないんだ」  デュークは頬を赤らめて俺のことを熱のこもった瞳で見つめてきた。心臓の音はどんどん早くなるし、その熱さに俺の腹の奥もなんだかやけに熱くなってきた。 「アリアス……欲しい」  デュークが耳元で呼び捨てにして囁いてきた。艶があって色気ある声に頭がくらくらとした。  しかもデュークは硬くなったそれを俺に擦り付けてきて、まさか信じられないが、俺もムラムラとしてきてしまった。  しかし、いくらデュークに挿れて欲しいと頼まれても、やはり躊躇してしまう。 「先生……、先生もすごい硬いじゃん。やば‥‥興奮しすぎて鼻血出そう」 「‥‥うっ‥‥あぁ」  俺のインポ疑惑はあっさり消え去った。デュークのアソコを感じたら、認めたくないのだが俺のモノも反応してズボンを押し上げて立ち上がってしまった。  しかしここからデュークをどうこうするというのが、まったく想像できなくて頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。 「……デューク、俺は……その、挿れるのとかはやっぱり……無理だと……」 「ふっ……確かに先生は生徒を食べる専門だって、噂には聞いたけど俺は先生を愛したい」 「……ん?」  今理解できない台詞を聞いた気がするが、全然頭が回らない。  目を白黒させてポカンとする俺に、デュークは遠慮なく手を這わせてきた。  胸元のボタンが外されて、ちゅくちゅくと乳首を吸われて甘い感覚を感じたところで俺の正気が戻ってきた。 「はっ……!あああっ愛したいって……お前まさか、俺を抱こうとしているのか!?」 「そうだよ。というか先生、こんな甘ったるい色気撒き散らしていて、よく今までタチやってたな。どう見たって抱かれる方なのに……。ここだって全然使い込んでないな……硬いけど、ほら、舐めたら柔らかくなってきた」 「あっ……バカ!噛むなっ…あっんんっ……引っ張るなぁ……ああっ!!」  乳首なんて女の子に弄られたことなかったし、こんなに気持ちいいのなんて知らなかった。噛まれた時にビリリと痺れるような快感が突き抜けて、思わずイキそうになってしまった。というかズボンの上からデュークが擦ってくるので、気持ち良すぎて軽くイったかもしれない。 「先生……なに?もうイっちゃった?タチ専門だったわりには意外と堪え性がない……」 「しか……た……いだろ。こんな……気持ちいいの……知らな……」  自分の知らなかった世界にショックを受けた俺は不覚にもまたぽろぽろと泣いてしまった。  頭の上でゴクリと唾を飲み込む音がした。恐る恐る見上げると、興奮しきった目をしたデュークと、ヤツのギンギンにデカく立ち上がってる巨根が目に入った。 「ひぃぃ!おっ…お前なんだ…その凶器は!!」 「凶器なんてカッコいい名前付けてくれて光栄だ。先生、もう我慢できないから挿れていい?」  許可を取るようなことを言いながら、デュークは力任せに勝手にズボンを下ろしてしまった。しかも手際よく俺の後ろの孔に指を入れてきた。 「はっ!お前…!なに!勝手に…だめ…壊れる…ダメだ…」 「やっぱり硬いな…。でも素質があるなら、すぐに出てくるはず……」 「やめっ……切れる!壊れる!」 「あっ…ほら、どんどん出てきた。やっぱり先生、抱かれる方だったんだね」  襲いくる痛みを想像してジタバタもがいていたが、痛みはいつまで経っても来なくて、変わりにむず痒さと何かが後ろから溢れるような感覚がした。 「え……なんか……尻がおかし‥‥‥」 「濡れるタイプがいるのは知ってるだろう。数は少ないけど、先生やっぱりそっちだったんじゃん。かつて絶滅した女の代わりに対応できるように人類が進化したんだよ。保健医のくせに知らないとかおかしいだろ。あぁ、もうぐちゃぐちゃだ。俺のもすぐに入りそうだ」  そんな進化ありなのかと頭の中でツっこんでいたら、デュークは凶器みたいにデカくなっているアレを、俺の足をぐっと持ち上げてあらわになった後ろに容赦なく挿入してきた。 「だあああああっっっ!!うぉぉっ……」  衝撃で色気のない声しかでないのは仕方がない。進化の恩恵を受けて痛みはほとんどなく、デュークの凶器をずぶずふと飲み込んでいく。 「ううっ嘘……。やば…何これ……体が……んっあああっ……やっ……奥…痺れる…」 「すげぇ締まる……先生、ナカ良すぎるんだけど……やべ……も、イキそ……動くよ」  デュークは荒い息を吐きながら、若さ溢れる勢いでガンガン腰を揺らしてきた。  デュークに挿れられた時点で、体が爆発しそうな快感に支配された俺は、完全に頭が飛んで、涎を垂らしながら激しい攻めに歓喜の声をあげて喘いだ。  俺を激しく突き上げながら、デュークはめちゃくちゃに俺の口にかぶりついてきて、舌をじゅるじゅると吸われた。下だか上だか分からない水音が部屋に響き渡り興奮をより高めていった。 「う…あああ、出ちゃう!嘘……俺……イキそう……デューク……だめ、イッちゃ…ああ!!」  掠れた声で先生イっていいよと耳元で囁かれたら、たまらなくなって俺はびゅうびゅうと白濁を撒き散らした。デュークのはだけた胸元やシャツに飛びまくってしまったが、そんなことを考える余裕などなかった。 「……先生、大きさはそれなりだけど、あまり出ないんだね。これでメスを満足させてたなんて信じられない。ほら、本当のオスの種付けを教えてやるよ」  溜まっていたのか、けっこう出た方だと思ったが、デュークは意味深なことを言った。 「デューク、も……いから、早くイケよ」  さっさと終わらせろという意思を込めて、デュークを睨みつけると、俺の中でデュークはぐわんと膨らんでもっとデカくなり、デュークがぴたりと腰を止めた最奥で、どくどくと熱い放流を感じた。 「はぁはぁはぁ…先生……アリアス……最高」  デカい体を揺らしながらデュークは絶頂の余韻に浸っていた。というか、いつまで経っても尻の奥で熱く流れるものを感じて俺は快感が止まらなくてデュークの腕をぐっと掴んだ。 「……てか、お前、いつまでイってんだよ。しゃ…射精まだ…終わらないの?」 「俺、長い方だから、後5分くらい?まあ、先生……楽しんでよ」 「ごっ…!!5分!!おかしいだろ!」 「オスの本能が強い個体は精液の量が多いんだよ。全部出しきるまで抜けないし…、先生、気持ちいいからいいだろ?」 「ひっ…もだめ…頭おかしくなるーー!」  またよく分からない進化なのか、デュークの出したもので俺の腹はパンパンになりそうだし、しかも受け止めてるだけで熱くて疼いてくるのでたまらない。  俺は前世も入れて生まれて初めて、快感で気が狂いそうになる、ということを知った。  結局そのまま、抜かずの二回目が始まって、俺の声も精もデュークに搾り取られた。  だいたい、鍵もかけずにヤってしまったこと自体、俺はどうかしていたとしか思えない。  これはゲームの中の世界のはずだ。  主人公はデュークで彼が全員からヤられるゲーム。それが、もともと素質があったのか知らないが、攻略対象の攻めであるはずの俺が、何故か主人公にヤられるという訳の分からない展開になってしまった。  絶対におかしい。こんな話は聞いていない。今すぐ異世界の異動願いを書いて出したいくらいだ。しかも、ヤられたことで俺は受けの本能に目覚めたらしくもっとおかしな展開になってしまった。 「ば…バカ……やめろ……抜いて……抜いてくれ……」 「無理だ……こんな匂いを撒き散らしているお前が悪い」 「だからって……いきなり突っ込むなんて……!!」  本に囲まれた埃っぽい空間で、壁に手をついている俺を後ろから襲っている大きな男はデュークではない。 「おっ…俺達、犬猿の仲のはずだろう。なんでこんなことになっているんだよ!んっっああ!!」 「仕方がないだろう…。ただでさえ、最近のアリアスはやけに色っぽくてヤバかったのに…この部屋にのこのこやってくるからだ」  耳元で掠れた声で囁きながら、ジェラルドはべろりと俺の耳を舐めてきた。  ひどい言いがかりだ。魔法学の準備室に出しっぱなしだった道具を返しに来ただけだ。  それが、誘ったみたいな言い方をされるのは大変心外だった。  デュークの若さでガンガン突いてくる感じと違い、ジェラルドは巧みに強弱をつけて責めてくる。いきなり準備室に連れ込まれたと思ったら、壁に押しつけられてクンクンんと匂いを嗅がれて次の瞬間、ズボンを下ろされてぶち込まれた。  完全に襲われた形だが、どうも俺は快感に弱いらしく簡単に後ろはほぐれてジェラルドを受け入れてしまった。  しかし、ジェラルドの焦らすような責めに耐えきれず、ありえない言葉が出てきそうになるのを必死で堪えていた。 「ジェラルド…ジェラルド…」 「なんだすっかり、甘い声を出しておねだりか?淫乱ヤリチン先生だったのに、従順なネコになったじゃないか。しかもこんなに濡らして…びしょびしょだぞ。後で床を拭いていけよ」 「人のこと……襲っておいて…ひ…どい…」  だったらもっと可愛くおねだりしろと耳元で囁かれて、俺はぶるりと震えた。  侯爵家の次男として生まれたジェラルドは幼い頃、魔力の才能を認められて親元から引き離された。  厳しい訓練でかなりの使い手に成長したが、国に仕えることより、学園で教鞭をとることを選んだ。  態度は偉そうだが、子供好きで実は心優しいキャラだったはずだ。  しかしこの状況、襲っておいて掃除を強要するなんて、とても優しいとは言い難い。 「ジェラルド…じ……焦らすな……もっと激しく…突いて…イキた……イキたい……」  爆発しそうな快感で頭がおかしくなりそうだった。俺は尻を突き出してジェラルドに擦り付けた。ジェラルドのアレはデュークに負けないくらいのデカさで上に曲がった卑猥な形をしていた。  あれに激しく突かれたいという気持ちで頭がいっぱいになってしまった。 「淫乱ネコめ。俺の咥えて涎垂らしてんじゃねーよ。おら、欲しいものやるから、意識飛ばすんじゃねーぞ」 「あっあっ…ううっあああああああっ…ふふぁぁ…、しぬ…死んじゃう……んぁぁ!!」  ゆるゆると動いていたジェラルドが、望み通り激しく抜き挿しを始めたので俺はあらゆるものを垂れ流して叫ぶように喘ぐ声を上げた。  打ち付けられる度に壁に顔をぶつけてしまうが、その痛みすら快感で、耐えきれなくなって壁に向かって白濁を放った。  俺がイったと同時にジェラルドも動きを止めて、どくどくと精を放っているのが分かった。  そしてこやつもまた、本能が強いタイプなのか、いつまで経っても気持ち良さそうに息を吐きながら俺の中に出していた。 「はや…く…終わってくれよ……」 「悪いな、俺は長い方なんだ。もう少し……はぁ……味わせてくれ、良すぎて……止まらない」 「ひー…ん、もう勘弁してー……」  半泣きで終わりを待っていたら、やっと出し終わったらしいジェラルドがズルリと自身を引き抜いた。ぼたぼたと大量の精液が溢れていき、なんとも耐え難い光景だった。  ひどい状態に放心状態でいると、ジェラルドはタオルを持ってきてテキパキと俺の体を拭いて、辺りを魔法で綺麗にしてしまった。  こんな状況ながら便利だなとポカンと眺めていたら、準備室のドアがドカンと大きな音を立てて蹴破られた。 「くそ!やっぱりアンタか!俺のアリアスに勝手に手を出したな!」 「ほぉー、俺の結界を壊すなんて、やるじゃないか、デューク」  ドアを壊して飛び込んできたのは、デュークだった。かなり探していたのか、赤い髪は汗で顔に貼り付いていて、荒い息をしていた。 「俺の、というのは間違っているな。アリアスは俺のものだ。お前みたいな青臭いガキはミルクでも飲んでろ」 「上等じゃねーか。アリアス先生はもう俺のものだ。アンタみたいな年寄りはスッこんでろよ!」  お互いトゲトゲした魔力を放って、二人の間にバチバチと焼けつきそうな火花が飛んだ。  俺はその光景を見てため息をついた。どう見てもゲームの紹介にあった、主人公を巡って争いになる二人だ。俺と主人公の立ち位置が違うのでもはや別物である。 「……ざけんな」  小さくこぼした俺の言葉を聞いて二人はピタリと動きを止めて視線を俺に向けてきた。 「二人して勝手なこと言いやがって!俺は誰のものでもないからな!ヤりたいんだったら、二人でヤってろ!っていうか、それが正解なんだ!」  俺の言葉が理解できないのだろう。二人してハテナという顔でポカンと口を開けている。俺は二人を残してさっさと準備室から飛び出した。  後ろから、アリアス待ってくれと叫ぶ二人の情けない声が聞こえて俺は深いため息をつきながら、廊下を走って逃げた。  もう、いやだ。絶対にヤらねー!俺の尻を守り抜いてやる!  心に決めながら廊下を走る俺を見て、鬼みたいな顔になった教頭の横を、俺は色んな意味で青くなりながら全速力でかけていったのだった。  こうして、俺の前途多難すぎる転生生活は、全く順調じゃない滑り出しとなった。  デュークとジェラルドにヤラレてもう、嫌な予感しかない。  そしてどうやら、俺はゲームの登場人物に触れられると体が疼きだすという厄介な特性があるらしく、ますます多難が訪れることになった。  走りすぎて息が切れてしまい、ぜぇぜぇと呼吸をしながら、俺は植え込みの中に隠れた。  相変わらずあの二人に追いかけられる日々を送っている。保健室には二人とも入室禁止にしたが、一歩外へ出ると突然襲われるので気を抜けない。しかも少し前、図書室で起こったことに頭を抱えた。  図書室で調べ物をしていると、隣いいですかと誰かが座る感覚がして、二人の声じゃなかったから、どうぞと俺は適当に答えた。  なにを見ているんですかと聞かれたから、医療関係の本だと言ってそいつに中身を見せた。  驚いたことにそいつは、その小難しい本を読んでいたらしく、内容をすらすらと言い出した。  ちょうど学会に提出しないといけない書類があって、こいつは使えると思ってそれをやらせてみると、期待通り完璧に仕上げてくれた。  すげーイイやつだな、なんて言って笑って、お礼の握手をしようとそいつの手を握った。  その時初めてそいつの顔を見たのだが、よく見たらあの攻略対象者、ルナソル・ブルームだった。銀縁メガネの奥から覗く涼しげな瞳に心臓がトクンと鳴ったその瞬間、俺のアソコはぐんと熱くなって大きくなってしまった。それはルナソルも同じだったようで、冷静そうな雰囲気が壊れて、慌てたような顔をして頬がカッと赤くなった。  まずいと思ったのは一瞬で、ルナソルにぐっと腕を掴まれて奥の禁書コーナーに連れて行かれた。  そこで淡白そうな外見からは想像もできない荒々しいキスをされた。  ぐちゅぐちゅと音を立てながら、口の中を滅茶苦茶に蹂躙されて、息をするのも忘れるほど舌を吸われて食い尽くされた。  気がつくと下着は濡れていて、俺はキスだけでイってしまったことに気がついた。  ルナソルが少し高音の掠れた声で先生と言いながら、膨張したアレを俺に擦り付けてきたところでやっと我に返った。  いくらなんでも、これ以上失態を犯せない。  俺は、すまないとかゴメンとか叫びながら、転がるようにして図書室から逃げ出してきた。  そして、今ここだ。  この急に熱が灯る感覚は前にも経験していた。デュークとジェラルドに触られた時に同じようになった。  他の生徒や教師は問題ないので、これはもう、ゲームの関係者限定としか思えない。  ずっと嫌な予感はしていた。  できるならその可能性は考えたくなくて、頭の中から排除していた。  もしかして、俺は……  俺が……  ぐにゃっと何か嫌な感触があった。学園の庭園にある植え込みに隠れたのだが、足で何かを踏んでしまったらしく慌てて足を上げるとそこには寝転んでいる人の手があった。 「いてぇな、誰だよ」  どうやらこんなところに先客がいたらしい、手を足で踏んづけたのに声も上げなかった。貴族のお坊ちゃまに怪我をさせたら大変なので俺は慌ててその手を掴んで自分の方に引き寄せた。 「良かった!怪我はないようだな。君、踏んでしまって悪かった。大丈夫か?」  声をかけると、のっそりと起き上がったムキムキの男は、緑の長髪のライジン・グリーンウェイだった。 「お前……、保健医か。なんだ…やけに甘い匂いがするな」 「えっ……ちょっ……!!」  ライジンはまるで犬のように俺の首筋に鼻を押しつけてクンクンと匂いをかいできた。  途端に俺の既にびしょびしょになっているアソコは火を噴いたみたいに熱さを取り戻した。 「……うまそう」  確か狼族の血を引いているライジンは、その名残りとして興奮すると牙が出てくる設定だった。  ライジンの口元に見える鋭い牙を見て俺は震え上がった。  間違いない。  俺はBLハーレムゲームの攻略対象者のはずが、総受け主人公の座に間違えて座ってしまったのだ。 「ライジン、君……おっ落ち着いて!冷静に話し合おう。とりあえず俺は仕事に戻らないといけないから……」 「だめだ。もう、収まりがつかない。食わせろ!」 「ひぇぇぇ!!もう無理!無理だってばーーー!」  この世界、体のお付き合いのハードルが低いのか分からないが、全員即、俺を食おうとする。もう、攻略とか好感度とか完全無視だ。  これはなんの罰ゲームだろう。  総受けのはずの主人公に食われ、同じ立場の攻略対象者達に狙われるなんて、やっぱり俺を送り込んだヤツら、絶対に許さない!  ハーレムってさ!  ハーレムって言ったけどさ!  こんなの、絶対ハーレムじゃない!! 「どけっ!触るなぁ…っっああ!……って!あっ、じゃねー!」  巨体からするりと抜け出した俺はまた全力疾走で逃げ回ることになった。  どこまで逃げるのか、いつまで逃げ続けるのか。  俺の終わりの見えない負ける気しかしない戦いは始まった。 「先生さ、俺から逃げれるって本気で思ってんのか?」 「うるさい!付いてくんな!」  一瞬で追いついたライジンが並走してくるけど、そんなの知ったこっちゃないと俺は走り続ける。  へぇ、面白いなと笑ったライジンの変なフラグを踏んだらしいが、そんなもの塵になって消えてしまえ。 「先生、そっちは壁だ」  顔に衝撃を受けて俺は後ろに倒れた。  全くクソみたいな最悪な世界だけど、仰向けにぶっ倒れた状態で見えた空は綺麗だった。  とりあえずどう逃げ切るか、薄れゆく意識の中で繰り返していた。俺の転生物語はまだ始まったばかり。  脱ハーレムを目指す俺は、暫しの休息に目を閉じたのだった。  □連載版に続く□
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