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 貴方と駅で待ち合わせしていた日だった。  「プッ、プー!!」  気づいた時には遅くて、迫り来るトラックを前にして、私は動くことができなくなった。  そんな私を救ったのも貴方だった。  あんなに気をつけていたはずなのに…  当たり前となっていた日々は簡単に壊れる…  救急車が到着するまで、泣くことしかできない私に貴方は意識を保ったまま「大丈夫だよ」と声をかけ続けた。  私はその言葉を信じて、貴方が救急車に運ばれている時も手術を受けている時も回復して目を覚ます時も、「大丈夫」と「また、貴方と楽しい日々を過ごせる」と、そう自分に言い聞かせてきたのに……  貴方が目を覚まして、私を見て放った言葉は信じられない、信じたくもない言葉だった。 「えっと……、どちら様ですか…?」  初めは聞き間違いかと思い、私はもう一度「優人」と貴方の名前を呼んだ。それでも、貴方から返ってくる言葉は最初と変わることはなかった。  でも私は、すぐにその言葉が嘘だと気づいた。なぜなら、貴方は嘘をつけないから。嘘をつくと必ず手を強く握り締める癖があったから。  今まで、貴方は相手を傷つけないための、相手を想っての優しい嘘しかつかなかった。もしも、私を傷つけないために嘘をついてるのだとしても…  なぜ、嘘をつくのか…  なぜ、私を忘れたフリをするのか…  私にはわからなかった…  
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