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 貴方が、どんなに「私のことを忘れてしまった」と嘘をついても、私は粘り強く貴方の元に通った。 毎日のように病院に行き、貴方の病室に向かい、話しかけた。2人の思い出の話をしたり、2人で撮った写真を見せたり、貴方が嘘をつく本当の理由を知るまで諦めることはなかった。  でも、私がどんなに頑張ろうとも貴方は嘘を貫き通した。何を話しても、「ごめん…、思い出せない」の一点張りだった。  時々、私のせいで事故にあって、私のそばにいることが嫌になったのではないかと思うこともあった。それでも、優しい貴方を信じて、ただひたすらに待っていた。  私が病室に入る度に、貴方は悲しい表情をして(うつむ)き、手を強く握りしめる。それなのにどうして嘘をつき続けるのか、時間ばかりが過ぎてゆくだけで何もわからなかった。  貴方が入院してから1ヶ月が経った頃、貴方との最初の出逢いのこと、貴方に出逢えたことで私の人生が変わったこと、少し恥ずかしかったけど、私の想いを貴方に話した。全て話し終わった後、貴方は涙を(こぼ)していた。そんな貴方に私は「どうして泣いてるの?」と聞いた。貴方は「結美さんのような素敵な人と僕は付き合えてたんだなと思ったら、どうして結美さんのことを思い出せないのだろうと思って………」と答えた。貴方の言葉は紛れもなく本物で、優しくて暖かい嘘だった。  私は、咄嗟(とっさ)に「もう、嘘をつくのはやめて…!」そう貴方に言った。それでも貴方は手を強く握り締めながら「本当に思い出せないんだ。ごめん…」と嘘つく。  私は耐えきれなくなって、病室の外へ飛び出し、その日はすぐに家に帰った。
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