不幸

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 田舎の小さな工場で働き始めて2年が経った頃、心に空いた穴を埋めるように、ただただ働き続けた結果、私は過労で倒れた。  目を覚ました時には病院のベッドの上で点滴をつけられた状態で寝ていた。いっその事なら、あのまま両親の元にいけたら良かったのにとさえ思った。(なんで生きてしまうのだろう…、なんで私ばかり…)  気づけば、ベッドに染みができるほど涙が溢れ出ていた。涙を流す私の姿を見た病院の先生が「大丈夫?どこか痛いですか?」と声をかけてきた。その病院の先生が貴方で、それが私と貴方の出会いだった。  私の住んでいた田舎には診療所の1つしかなく、そこでは何も出来ないため、街にある少し大きい病院に運ばれていた。点滴が終わると、屋上に行けることを知った私は、屋上に向かった。  屋上には、あまり人は()らず、曇っていた気分が少しだけ解放された。フェンスの側まで行き、外の景色を眺める。どこからか子供の笑い声が聞こえ、私は声のする方へ目を向けた。目を向けた先には、楽しそうに遊ぶ子供とその姿を笑顔で眺める親の姿があった。 (いいな…、私にはもう…) 落ち着いたはずの涙が、また溢れ出てきた。 これまでに何度も何度も願った…、もう一度、もう一度でいいから両親に会えないかと…  フェンスを強く握り、ぶつけようもない悲しみに呑み込まれそうになった時、「大丈夫ですか…?」と声をかけられた。優しい顔をした貴方に。  誰にも話すことは無いと思っていた。そして、誰にも関わりたくないと思っていた。でも、貴方の柔らかい雰囲気に、おっとりとした優しい表情に、私の心は解きほぐされていった。
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