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「……話って、あたしに何かあったんですか?」
侑奈の隣の男性を見上げると彼は思い出したように「あぁ」と上瞼を上げる。
「あのさ、頼みたいことがあって」
「頼み?」
「今度学祭あるじゃん?楓花ちゃんにイメージガールやってもらいたいんだ」
「イメージガール…」
「モデルとかステージイベントに出てもらうだけで良いんだよね。楓花ちゃんだったら認知度あるし、助かるんだけどなぁ〜!」
一色さんは侑奈に擦り寄り、あたしではなく彼女に「ねぇ」と声を掛ける。
言わずもがな侑奈ときたら「ですよねぇ〜」なんて、緩みきった笑顔で好きな人の肩を持つ始末だ。
誰にも聞こえないくらいのため息を落とし、ぺたりと表情に笑顔を貼り付ける。
「あたしがそれを引き受けても、父はスポンサーにはなりませんよ」
「あ、まじかぁ〜。学祭にリーブスの援助が受けられると思ったのに」
やっぱりあたしじゃなくて、あたしの後ろにある価値が欲しいんだよね。
彼の思惑を理解すると、グラスを傾けて甘いカクテルで喉を潤した。
「て、冗談だよ。これマジで、楓花ちゃんにしか頼めないって思ってるから」
しかし全部が思惑通りには行かず、侑奈の身体越しに覗かせたその顔からは笑顔が消えていて、人あたりの良さそうな瞳を申し訳なさそうに細めている。
……だけどあたしも素直に譲れない。
「バイトしてるし、無理です」
「ちょっとだけでも!お願い!」
……執拗いなぁ。
この無意味なやり取りも面倒だし、引き受けるともっと面倒だし……。
「楓花ぁ、どうしても無理?、」
更には侑奈にさえも子犬のような瞳を向けられ、返答に困り果てていた時、
「一色先輩」
耳に、別の声が届いた。
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