雨の日、駅舎にて

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 松井美月(まついみつき)、と名乗った彼女曰く。  今から三、四ヶ月前……夫、松井金秋(まついかねあき)氏が亡くなってから一ヶ月程経った頃に、その手紙は届いたという。  差出人の名に覚えはなく、宛名も美月氏の知らぬ名前。訃報への返事が大量に来たので、その中に紛れてしまったのだろうか。  けれど住所は間違いなく、松井家を示していた。見知らぬ女性と思しき人からの手紙。筆跡からは若々しさが感じられる。彼女の中には、背徳的な好奇心があった。  しばらく悩んだ後に、美月氏は良心に苛まれながら、手紙を開いた。 「今思えば、自分の中の倫理に従うべきでした。間違いではないでしょうかと、未開封の手紙を添えて返すべきだったのです」  開いた紙には、封筒と同じく可愛らしい字が連なっていた。
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