序 幕 ~祈祷~

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序 幕 ~祈祷~

 部屋の中は異様な雰囲気だった。  分厚いカーテンが外の光を遮り、部屋の中を照らすのは長机の上に並べられた蝋燭の揺らめく灯りのみ。  長机の中央には大きな平皿に水が張られ、その四方を注連縄が囲むんでいた。傍らには香炉や小刀、小瓶に榊だのが並ぶ。部屋に充満するクラクラする程の甘い香りはこの香炉から香っているのだろう。  まるで祭壇だ。  その祭壇の前に一人の女が座っていた。二十代半ばの美しい女だったが、乱れた長い黒髪を整えもせず、両手で印を結び、一心不乱に呪文を唱え続ける姿は鬼気迫るものがあった。  どれくらい続けているのだろう。額には玉のような汗がびっしりと浮かび、薄い寝間着は体に張り付いてすっかり透けてしまっている。だが、そんなことを気に掛ける素振りすらなく、女は口の中で呪文を唱え続けていた。
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