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「私だって家の中と外じゃ違うわよ。この間は仕事の後だったしね」
恵美はそう言ってケラケラと笑う。名家の奥様とは思えぬ親しみやすい態度は、天堂の記憶に微かに残る学生時代のままだった。
「それで、早速だけどこれからどうする? どこか見たいところがあるなら私が案内するけど」
「奥様直々に?」
確かに、初めて訪れた人間が一人でこの屋敷を見て回るのは困難だ。間違いなく道に迷って戻れなくなる。しかし、メイドか誰かに案内させるものだとばかり思ってたので、天堂は意外そうな声をあげた。
「何よ、奥様なんてこそばゆい呼び方。良家同士の晩餐会じゃあるまいし。普通で良いわよ。それに実際に目撃したのは私なんだから、私が案内した方が効率良いでしょ」
当然だと言わんばかりに恵美は言った。名家に嫁いだものの、恵美自身はさほど家柄や立場というものに拘らないらしい。無論、体面が求められる場面ではきっちりこなすのだろうが。
「それじゃあ、神楽坂さん――だと他にもいるのか、恵美さんが見た魔法円のあった場所に案内して貰えますか」
「魔法円? 魔法陣じゃなくて?」
天堂の言葉に恵美は目を丸くした。魔法円という言葉は耳馴染みが無いのだろう。
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