5人が本棚に入れています
本棚に追加
中に入り恵美が照明のスイッチを入れた。
明かりが灯る。特に何も無い、ただの物置だ。
「確かにここで見たんだけど、今は御覧の通り。慌てて人を連れてきた時には綺麗さっぱり無くなってたわ。夫にも寝ぼけたんだろうなんて言われるし、散々よ」
自分の証言を信用してもらえないことが随分と不満らしい。恵美は不機嫌そうにぼやいた。
「何か気づいたこととか、その時に感じたこととかありませんか? 些細なことでも構いません」
天堂に問われ、恵美は腕組みしながら当時のことを思い出す。
「床の魔法陣を見て、私怖かったの。背後から月明かりが差し込んで、真っ赤な魔法陣を照らし出していたから、直観的に血だと思ったのよ。でも、嫌な臭いはしなかったわ。なんだか懐かしさを感じるような匂いだった気がする」
「血、ですか」
天堂はその場にしゃがみ込み、物置の床に触れた。どこにでもある板張りの床だ。もちろん血痕などは見当たらない。
しばし考え込んだ後、天堂はおもむろに立ち上がると、真剣な表情で恵美の方に向き直った。
「恵美さん。これから見ること、口外しないと約束出来ますか?」
「な、何? どうしたのよ天堂くん」
最初のコメントを投稿しよう!