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床の上に現れた紋様を指さして恵美が叫ぶ。大きな円の内側に、正方形が交差し、その中心に小さな円が接する幾何学模様。
「これだけですか?」
天堂は不満そうに辺りを見回すが、炎によって描かれたものは、その幾何学模様だけだった。
「て、天堂くん! 今の何? 何したの!」
そんな天堂の様子とは裏腹に、恵美は興奮冷めやらぬ様子で質問を天堂に詰め寄った。目の前で摩訶不思議な出来事が起こったのだ。騒ぐのも無理はない。
「今のは陰陽道の方術です」
「陰陽道って、あの安倍晴明とか?」
天堂は頷く。それを見て恵美はさらに目を輝かせた。
「凄い! こんな魔法みたいなことが本当に出来るなんて。まるで映画の世界じゃない」
だが、そんな恵美を見る天堂の眼差しは些か冷ややかだ。
「恵美さん、もう少し疑いましょう。例えば手品なんじゃないか、とか。そんなに言われたことを鵜呑みにしてると、詐欺や霊感商法に引っかかってしまいますよ」
きっとこのくらいの芸当、奇術師ならば容易にやってのけるだろう。それを方術と言われ素直に信じ込む恵美の態度に、天堂は少し心配になったのだ。
「天堂くんにそんな嘘を言う得が無いじゃない。今回の件だって私の方から無理やりお願いしてる訳だし。それに、天堂くんのこと信用してるから」
眩しい笑顔でそう言われると、気恥ずかしさに目を逸らすのは天堂の方だった。
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