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ピタリと呪文が止んだ。
女は小刀を手に握ると、自身の手のひらを斬りつけた。真紅の鮮血が溢れ出る。
「我が血を代償に願いを叶えたまえ」
平皿の上に手をかざすと、傷口から溢れ出る血が張られた水に滴り落ちる。真っ赤な雫が水面を揺らし、水の中に滲んで消える。
再び女は呪文を唱え始めた。自分の血を捧げながら必死に祈り続ける。顔にかかる黒髪の奥で、女は平皿の水面をジッと見つめていた。血が滴り落ちる度に波紋が広がる水面を、瞬きすら惜しむようにジッと。
どれほどの血が水に溶け込んだ頃か。ゆらり、と水面が波打った。
血が滴り落ちた衝撃で水面が揺れたのではない。その後も水面が静まることなく、ゆらゆらと揺れ続けていた。
女の顔が綻ぶ。
先ほどまでの鬼気迫る表情から一転、まるで憑き物が落ちたかのような穏やかな表情だった。
女は祭壇に置いてあった小瓶を掴むと、中身を一気に飲み干した。
女の手から空になった小瓶が転がり落ちる。そしてそれに続くように女の体も床に倒れこんだ。
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