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直ぐに注文の品が運ばれてくる。天堂は口の周りを汚しながらスパゲッティミートソースを貪った。おおよそ三十路を超えた大人とは思えない食べ方だったが、女はその姿を見て笑い出した。
「全く変わってないわね、天堂くん。そのがっつき方。中学時代の頃と全く同じ」
女は珈琲を飲みながら食事の様子を懐かしそうに見つめていた。瞬く間に平らげてしまうと、天堂はミートソース塗れの口元を紙ナプキンで拭う。
「僕みたいな影の薄い奴のことをよく覚えていますね。でも、真宮寺さんも学年のアイドルだったあの頃と変わらずお美しいですよ。おっと、今は神楽坂さんでしたね」
神楽坂恵美。天堂とは中学時代の同級生だ。もっとも、才色兼備で人気者だった恵美と、本の虫だった天堂との間に接点らしい接点は無かったが。
「お褒めの言葉をありがとう。でも、お世辞は結構よ。お肌の曲がり角も過ぎて、もう若くないってのは重々承知なんだから」
謙遜する恵美だったが、天堂の言葉は決してただの世事では無かった。もう三十代も半ばに差し掛かっている年齢の筈だが、二十代でも十分通用するだろう。
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