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第二幕 ~神楽坂邸へ~
約二十年ぶりの再会から数日後。天堂は恵美に招待され、神楽坂家の屋敷を訪ねていた。
「ここまで次元が違うと、妬ましいという感情すら湧いてこないな」
思わず独り言が漏れた。
奥に覗く旧華族の邸宅を思わせる豪奢な洋館に、それをとり囲む緑豊かで広大な庭。どれほどの広さがあるのか見当もつかないが、少なくとも見渡し切れる広さでは無い。
「ネクタイくらい、締めてくればよかったかも」
天堂は改めて自分の格好を見下ろした。開襟シャツ、ジャケット、パンツ。靴下から革靴に至るまで全て黒一色なのは、子どもの頃に読んだ小説の「黒は時と場所を選ばない万能な服である」という一文を鵜呑みにして育ってしまった所為だ。
事実、センスが無いと陰で笑いものになることはあっても失礼に当たることはまずないので、何処に行くにも天堂の装いは大抵同じだった。
それほど服装に無頓着な天堂ですら、装いを気に掛ける。それだけの威圧感が神楽坂邸にはあったのだ。
しかし、いつまでも尻込みしていても仕方ない。何せ、まだ門をくぐってすらいないのだ。このままいつまでも立ち往生していると、不審者として警察のお世話になり兼ねない。
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