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意を決して天堂はインターフォンを鳴らした。
「はい。どちら様でしょうか」
淡々とした声が返ってくる。
「天堂惣右介と申します。神楽坂夫人にご招待いただき、参りました」
「天堂様ですね。お話は奥様からうかがっております。門を開けますので、どうぞ屋敷の方へお進みください」
声が途切れるとすぐに鉄檻のような門扉が音を立てて動き出した。
恐る恐る門の内側へと足を踏み入れる。もちろん敷地内に立ち入ったからといって何が起こる訳でも無い。
胸を撫でおろして数歩ほど歩いた時。洋館の方から駆けてくる恵美の姿が見えた。
思わず天堂は目を奪われた。先日のきっちりとスーツを着こなした恵美も年齢を感じさせない美しさだった。しかし、ゆったりとしたブラウスに柔らかなロングスカートという装いの為か、それとも緩くウェーブを描く髪型の所為か、とても人妻とは思えぬ可愛らしさを感じたのだ。
「いらっしゃい。わざわざ来てくれてありがとう。……どうかしたの?」
言葉を失う天堂の様子に、恵美は怪訝な表情を浮かべた。
「いえ、この間とは随分印象が違うから少し驚きまして」
まさか人妻に見惚れていたなどと言える訳もない。ましてやここは神楽坂邸の敷地内だ。
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