力と代償

3/4
前へ
/51ページ
次へ
『新影流ホスト剣術最終奥義・ゴールデンボンバー』 この技を放つ際には、心臓の動きを一時的にブーストさせ、血圧を通常の二倍にしなければならない。 また、肺の動きを活性化させることで、血中の酸素濃度を通常の二倍にしなければならない。 高い血圧、そして高い血中酸素濃度。 これらで以て全身の筋肉の能力を飛躍的に増大させることで、音速を超える斬撃を繰り出すことが可能となるのだ。 しかし、その力の代償として、体のあらゆる部位に非常な負荷がかかってしまうのだ。 まず、血液を普段の倍の圧力で全身に送り出すため、心臓にかかる負荷が非常に大きい。 そして、全身の血管にも負荷が掛かる。 特に、毛細血管が破壊されるリスクが極めて高い。 細かな血管が隈無く張り巡らされている脳などは、内出血のリスクが非常に高いのだ。 肺にも非常な負荷が掛かる。 吸い込んだ空気と血液との間で酸素と二酸化酸素を交換させる肺胞が破損するリスクは飛躍的に増大すると言われている。 『新影流ホスト剣術最終奥義・ゴールデンボンバー』 その発動には、細心の注意が払われている。 ツケを一向に払わず、ホストクラブ側からの再三の請求に応じないクソババアやクサレブスには、『新影流ホスト剣術最終奥義・ゴールデンボンバー』発動の一週間前に、最終警告書が裁判所から送付される。 それと同時に遣い手のホストは、医者のところに行き、その肉体が『新影流ホスト剣術最終奥義・ゴールデンボンバー』の発動に耐えうるかどうかの厳密な精密検査を受ける。 なお、その遣い手が精密検査で不適と判定された場合に備え、予備の遣い手が二名指名され、彼らも同時に精密検査を受けるのだ。 三日三晩に渡る精密検査によって、『新影流ホスト剣術最終奥義・ゴールデンボンバー』発動可能と判定されたなら、そのホストはそれから三日三晩の間はその身を慎み、朝晩には水垢離を行う。 そして、発動の日には、日の出と共にお祓いを受け、店のオーナーと水杯を交わした後に、対象となるクソババアやクサレブスの元へと向かうのだ。 『新影流ホスト剣術最終奥義・ゴールデンボンバー』 それは身体に過酷な負荷を課す、命ギリギリのカーニバル。 それ故、その発動に際しては細心の注意が払われるべき諸刃の剣。 『新影流ホスト剣術最終奥義・ゴールデンボンバー』 それはメガネブスの攻撃により大きなダメージを受けた俺の体では、到底発動し得ない技だったのだ。 俺の左肺は、メガネブスの突きによって、その機能を殆ど喪っていた。 それ故、その左肺の機能を補うために、俺の右肺には、普段の四倍の負荷が掛かってしまったのだ。 俺の右肺は、その負荷に耐えきることが出来なかった。 結果、俺の右肺は爆発してしまった。 俺の体中の組織には、通常の二倍の圧力で血流が流れていた。 メガネブスの攻撃で相当に痛めつけられていたとは言え、何とかギリギリで耐えていた。 しかし、右肺の爆発の衝撃が全身へと伝わり、そのギリギリの均衡が崩壊してしまった。 結果、体中のあらゆる部位で血管が破断してしまい、全身から血が噴出してしまうこととなったのだ。 それが、俺が無理を承知で『新影流ホスト剣術最終奥義・ゴールデンボンバー』を発動させようとしたの代償だった。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加