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Ⅴ
それから、相良が練習している土手には一回も行くことがなかった。
あのわたしの言葉を相良が聞いていたか。それは、わからない。けど、問題はそれではないような気がした。
わたしが土手に行かなくなったことで、もともと学校では一言もしゃべらないわたしたちは、あっけないくらいに、なんの接点ももたなくなってしまったのだった。
そのまま、卒業式を迎えて、わたしたちは違う道を進んで。
中学を卒業してからは、相良をダシにしてまでわたしが大事にしていたあのちっぽけな世界も、あっという間に壊れて、ミカたちとはまったく会わなくなった。
ちなみに、高校に入って、彼氏もできた。大学でも、社会人になっても、その手の方には困らなかった。……ただし、どの人も、一年以上もたなかったけれど。
あれから、十年以上。
あの土手で安い缶コーヒーを飲んでたわたしと相良が、いま、カフェでフラペチーノとドリップコーヒーなんて飲んでいる。
あの時のことを、相良はどう思っているのか。そう考えただけで吐きそうになるわたしなんてお構いなしに、彼は、おだやかな表情で口を開いた。
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