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「そういえば、西原(にしはら)さんに聞いてもらいたいことがあって。  ぼく、まだトランペットを吹いているんだ。  本業は音楽系のライターをやってるんだけど、たまに、依頼されることもあって」  ちょっと誇らしげに笑う彼に、わたしはつい、あの土手に戻ったみたいな気持ちで相良(さがら)に話しかけてしまう。 「え、すごい! ちゃんと音楽の仕事やってるんだ!」  彼は、わたしと真正面から向き合って、本当に嬉しそうにくしゃりと表情を崩した。  そして、優しい顔で口を開く。 「西原(にしはら)さんがあのとき、『絶対なれる』って言ってくれたから、がんばれたんだと思う。  ぼくは、本当に、西原(にしはら)さんに感謝しているんだ。今日、伝えられてよかった」  その言葉は、彼の音色くらい、まっすぐで、わたしの心にじんと響いて。  おこがましくも、ずっと閉じ込めていたあの金色が、あふれ出してしまいそうなほど。  ……それでも、さすがに、それはもうナイ。ナイんだ。もう、相良(さがら)とは、絶対に。  そう思って、わたしは、なんとなく見ないふりをしていた彼の左手を指さして、声をかける。 「それにしても、相良(さがら)、結婚したんだね。おめでとう」
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