129人が本棚に入れています
本棚に追加
「そういえば、西原さんに聞いてもらいたいことがあって。
ぼく、まだトランペットを吹いているんだ。
本業は音楽系のライターをやってるんだけど、たまに、依頼されることもあって」
ちょっと誇らしげに笑う彼に、わたしはつい、あの土手に戻ったみたいな気持ちで相良に話しかけてしまう。
「え、すごい! ちゃんと音楽の仕事やってるんだ!」
彼は、わたしと真正面から向き合って、本当に嬉しそうにくしゃりと表情を崩した。
そして、優しい顔で口を開く。
「西原さんがあのとき、『絶対なれる』って言ってくれたから、がんばれたんだと思う。
ぼくは、本当に、西原さんに感謝しているんだ。今日、伝えられてよかった」
その言葉は、彼の音色くらい、まっすぐで、わたしの心にじんと響いて。
おこがましくも、ずっと閉じ込めていたあの金色が、あふれ出してしまいそうなほど。
……それでも、さすがに、それはもうナイ。ナイんだ。もう、相良とは、絶対に。
そう思って、わたしは、なんとなく見ないふりをしていた彼の左手を指さして、声をかける。
「それにしても、相良、結婚したんだね。おめでとう」
最初のコメントを投稿しよう!