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「じゃあ、今日は本当に会えてよかった。なんか最後騒がしくてごめんね」
店を出て、相良はにこやかに笑う。
「ううん、お仕事がんばってるみたいでよかった!」
「それは、西原さんも。体には気を付けてね。お互い、もう若くないんだからさ」
「見た目が時間に取り残されてる相良に言われたくないんですけどー!」
……なんて。いままで時間に取り残されたのは、わたしの方だ。
相良は、あははと笑って、それから、ちらりとわたしの方を見た。
突然、夕夏ちゃんの耳を両手でふさぐ。
「最後になっちゃったけど……、実はあのとき、西原さんのこと、好きだったんだよね。なんて」
「もー、パパ、なにすんのー!」「あはは、ごめんごめん!」。そんなふたりのやりとりのなか、わたしはといえば、顔を赤くせざるを得なかった。
……もう、これじゃ、まるで中学生の女の子みたいじゃないか。
「……相良、ありがとう。元気で」
いままでのごめんを感謝の言葉にこめて、彼に。相良は「こちらこそ」と呟いて、夕夏ちゃんの右手をとった。
空いた方で手をふるかわいい親子を見送る。
もしあのとき、わたしに、勇気があれば。もしかしたら、空いているあの子の左手を握っていたのは、わたしだったのかもしれない。……なんて、それは妄想しすぎか。
あの家族のこれからには、きっと、幸せがたくさんなんだろう。
……ほら、わたしのカンは、当たるんだから。
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