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ダークローストのコーヒーをふくんで「あちっ」なんて呟いている彼を、ぐちゃぐちゃな気持ちのまま観察する。
中学を卒業してからゆうに十年以上経つというのに、小柄さも相まって、奇跡の童顔をのっけている。わたしなんて、デパコスで小じわ対策を始めだしてしまったというのに。
彼はプラスチックのふたを開けて、コーヒーに息を吹きかけてから、突にわたしを見てにこりと笑う。
「すぐにわかったよ。西原さん、変わらないね」
「相良こそ。中学生みたい」
「えっ、それ、喜べないんだけど。どうせチビだよ、ぼくは」
ぼく。変わらない自分の呼び方が、安心するような、余計に心がざわめくような。
相良は、とうとうコーヒーを飲むのを諦めて、軽く腕を組んだ。
「西原さんこそ、中学のときから変わらないよ。
おしゃれで、背が高くてかっこよくって、なんかオーラがすごくて。
その恰好ってことは、お仕事もがんばってるんだね。やっぱりできる人は違う」
「全然、そんなことないよ」
仕事なんて、たまたま就職できた会社で、たまたまカンがよくって同期たちより一歩進んでるだけ。
たかが一企業のなかで評価されたとしても、それは、大してそんなにすごい訳じゃないんだよ。すくなくとも、わたしは。
「相良は、いま、なにしてるの?」
「ぼく? あぁ、ぼくはねぇ……」
そうして相良は、すこし照れくさそうに、口を開いた。
彼のその様子を見ていると、わたしのなかで、ぽん、と、とつぜん一音だけ音が鳴った。忘れていたオルゴールが、急に動き始めたみたいだった。
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