2/2
前へ
/14ページ
次へ
 ダークローストのコーヒーをふくんで「あちっ」なんて呟いている彼を、ぐちゃぐちゃな気持ちのまま観察する。  中学を卒業してからゆうに十年以上経つというのに、小柄さも相まって、奇跡の童顔をのっけている。わたしなんて、デパコスで小じわ対策を始めだしてしまったというのに。  彼はプラスチックのふたを開けて、コーヒーに息を吹きかけてから、突にわたしを見てにこりと笑う。 「すぐにわかったよ。西原(にしはら)さん、変わらないね」 「相良(さがら)こそ。中学生みたい」 「えっ、それ、喜べないんだけど。どうせチビだよ、ぼくは」  ぼく。変わらない自分の呼び方が、安心するような、余計に心がざわめくような。  相良(さがら)は、とうとうコーヒーを飲むのを諦めて、軽く腕を組んだ。 「西原(にしはら)さんこそ、中学のときから変わらないよ。  おしゃれで、背が高くてかっこよくって、なんかオーラがすごくて。  その恰好ってことは、お仕事もがんばってるんだね。やっぱりできる人は違う」 「全然、そんなことないよ」  仕事なんて、たまたま就職できた会社で、たまたまカンがよくって同期たちより一歩進んでるだけ。  たかが一企業のなかで評価されたとしても、それは、大してそんなにすごい訳じゃないんだよ。すくなくとも、わたしは。 「相良(さがら)は、いま、なにしてるの?」 「ぼく? あぁ、ぼくはねぇ……」  そうして相良(さがら)は、すこし照れくさそうに、口を開いた。  彼のその様子を見ていると、わたしのなかで、ぽん、と、とつぜん一音だけ音が鳴った。忘れていたオルゴールが、急に動き始めたみたいだった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

129人が本棚に入れています
本棚に追加