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「だ、だれっ!?」
「わたし、わたし。相良、すごいじゃん。カンドーしちゃった」
「西原さん!? どうしてここに」
おびえたような目をする相良。まぁ、今までほとんど話したことないしな。
「相良って、吹部?」
彼はとまどいながら、ぽつぽつと話す。
「ち、違うよ。帰宅部」
「でも、すごく上手だったよ! なんで吹部じゃないの」
「吹部、女子しかいないから、入りづらくて」
「ふぅん……」
相良の隠れた才能を誰も知らないのは、なんだかもったいないと思った。
「いつもここで演奏してるの?」
「まぁ、たまに。家じゃ演奏できないし、勉強の息抜きで」
「へぇ~……。じゃあさ、暇なとき、聞きにきていい?」
「へっ!?」
間の抜けた驚き方をする相良。眼鏡の奥の瞳が揺れる。
「さっきの曲、好きなんだよね。昔、お父さんに教えてもらったような気がする」
「『青春の輝き』のこと?
それならよっぽど原曲の方が素敵だから、またお父さんに聞かせてもらったらいいじゃんか」
「……もう、聞けないんだ。絶対」
含みを持たせて言ったその言葉に、相良は、すこし眉をゆがませる。
「そっか……。
……じゃあ、こんなので、よければ」
そんな相良に、わたしは、心のなかでガッツポーズをした。
……まぁ、蓄音機が壊れたってだけで、お父さんはもういないとか、そういうのじゃないんだけど。
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