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「これをほら、こう、口に当てて……」
相良が自分のぶんを使って、息を吹き込む。すると、ぷぅーっと、音が鳴った。
「なんだ、これだけでも音が出るんだ」
「なんだ、って言われると困るんだけど」そう言って、相良はとたんにはっとした顔をする。「あっ、もちろん、そっちはちゃんと洗ってあるから!」
相良の謎の慌てぶりが、わたしにも感染する。
「なっ、わ、わかってるよ! こんなの楽勝だし」
勢いよく息を吹き込む。でも、どれだけがんばっても、すかすかした、息が漏れる音しかしない。相良はおかしそうに笑った。
「……西原さんにできなくて、ぼくにできることもあるんだなぁ~……」
「なにそれムカつく! ちびっこのくせに!」
「こら、人が気にしてることを!」
憤慨する相良を尻目に、わたしは、むきになってさらに息を吹き込んでみる。けれど、一向に相良みたいな音がでる気配がない。そのうち相良がお返しと言わんばかりに「ヘンな顔」なんて茶化すものだから、わたしはすねて、それを思いっきり相良につき返した。
「てか、これ、壊れてるでしょ! ためしにこっちで吹いてみてよ!」
そう言い放つと、相良はぎょっとした顔をしながらマウスピースを受け取る。
「えっ……、これで?」
「今ハンカチで拭いたし! それに、間接キスとか別にって感じだし」
それは、嘘だ。だってこんなにも、胸のどきどきが止まらない。
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