2/3
前へ
/14ページ
次へ
「これをほら、こう、口に当てて……」  相良(さがら)が自分のぶんを使って、息を吹き込む。すると、ぷぅーっと、音が鳴った。 「なんだ、これだけでも音が出るんだ」 「なんだ、って言われると困るんだけど」そう言って、相良(さがら)はとたんにはっとした顔をする。「あっ、もちろん、そっちはちゃんと洗ってあるから!」  相良(さがら)の謎の慌てぶりが、わたしにも感染する。 「なっ、わ、わかってるよ! こんなの楽勝だし」  勢いよく息を吹き込む。でも、どれだけがんばっても、すかすかした、息が漏れる音しかしない。相良(さがら)はおかしそうに笑った。 「……西原(にしはら)さんにできなくて、ぼくにできることもあるんだなぁ~……」 「なにそれムカつく! ちびっこのくせに!」 「こら、人が気にしてることを!」  憤慨する相良(さがら)を尻目に、わたしは、むきになってさらに息を吹き込んでみる。けれど、一向に相良(さがら)みたいな音がでる気配がない。そのうち相良(さがら)がお返しと言わんばかりに「ヘンな顔」なんて茶化すものだから、わたしはすねて、それを思いっきり相良(さがら)につき返した。 「てか、これ、壊れてるでしょ! ためしにこっちで吹いてみてよ!」  そう言い放つと、相良(さがら)はぎょっとした顔をしながらマウスピースを受け取る。 「えっ……、これで?」 「今ハンカチで拭いたし! それに、間接キスとか別にって感じだし」  それは、嘘だ。だってこんなにも、胸のどきどきが止まらない。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

129人が本棚に入れています
本棚に追加