プロローグ

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プロローグ

「やっほー!」  スライド扉を開くと、淡いピンクのカーディガンがふわりと浮き上がった。 「美姫(みき)ちゃん!」 「さくらー! 元気そうだねー」 「うん、ついさっきお散歩の許可が出たの」 「やったじゃん! じゃあ明日も来ようかな」 「悪いよ」 「私が来たいから来るんだよー」  血色の良くなった頬が緩み、照れたように笑う。  ほんの少し前では想像もつかない “人間らしさ” に思わず魅入ってしまって、すぐに不安そうな表情に変えさせてしまった。 「美姫ちゃん?」 「ごめんごめん、嬉しくてつい見つめちゃった」 「ひゃー」  今度は赤くなる。  そんなコロコロ変わる表情もまた嬉しくて、このやろーと抱きついた。  温かいし鼓動の音もしっかり感じる。  生きている。確かに生きている。  当たり前のことが嬉しくて嬉しくて、彼女から名前を呼ばれるまで抱きしめ続けた。 ーーーー約2ヶ月前。 『美姫さんですか?』  数ヶ月ぶりに、それも珍しく彼女から電話がかかってきた、と思っていた。 『どなたですか?』  確かに画面の通知はさくらの名前が出ていた。けれどその声は聞いたことの無い男性のもの。  何事かと慎重に尋ねてみると、とても丁寧な言葉遣いで自己紹介された。  声の主はさくらの旦那さんだった。
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