プロローグ

4/5
前へ
/37ページ
次へ
 彼女はとても笑顔の素敵な女性だった。  何でもそして誰へでも手を差し伸べて、一生懸命になる子。だけど自分のこととなると不器用で、なかなか弱音も吐かないから、溜まりに溜まってしまうストレスを何とか発散させていたほど。  そんな彼女がここまで追い込まれるほどの出来事とは一体。 「あーあーごめん、さくらを泣かせてしまった。泣かないで、はまず私からだね」  そう言って無理くり自分の目を擦り、満面の笑顔を見せつけてみた。  するとゆっくりと、さくらも溢れさせていた涙を減らし、すぅっと息を吐き出してくれた。 「ーーに……ーーーーった」 「なぁに?」  虫の声ほどに小さなそれは聞こえなくて、そっと耳を近付ける。 「美姫に……会いたかった……」  そして再び溢れ出すさくらの涙。  私の使った後で申し訳ないけれど、それでもほっとけるはずもなく、濡れたハンカチでそれを拭き取った。 「うんうん、なかなか連絡取らなくてごめんね。もう話せる、もうずーっと話せるよ!」  うんと頷いて見せてくれた小さなさくら。  またすぅと息を吐き出すと、ゆっくりとまぶたが開いて、暗い瞳が確かに私を見てくれた。  美しく明るかった彼女の瞳は、どこに行ってしまったのか。  それがまた辛くて、泣き出しそうになったけれど、ぐっと我慢して何かを吐き出そうとする彼女の口元に、再び耳を近づけた。 「(しん)くんに、振られちゃった……違う……振れさせて……しまった」 「あー……信くんって、あの信くん?」  今日1番の大きな頷きを見せてくれたさくらは、また1番大きな涙を枕へ染み込ませる。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加