プロローグ

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 そうか。  この状況はあいつのせいか。  あー……そこまで追い込まれてたのか……。  喜びや辛さを簡単に飛び越え、怒りと憎しみが頭も心も蝕んでいく。  気づいてあげられなかった自分にも怒りを覚え、いつの間にか握りこぶしが震えていて、そこに触れた冷たいもので不意に現実を取り戻す私。  それは細すぎる、さくらの手だった。 「怒らない……で。私が悪いし……勝手だったから……弱かったから……」 「もう! いい加減そんなに責めるなってば!」 「……ごめんなさい」 「私こそ大きな声出してごめん」  少しだけ開いた扉から、さっきの看護師さんが視線だけを覗かせた。  すみませんと何度も謝って見せると、変わらず笑顔でまたゆっくりと扉が閉められた。 「色々理解したから、今日は一旦休もう? 明日からは可能な限り顔出すから、ゆっくり話そう? ね?」 「でも……それは……たいへ」 「私が好き勝手でやるから大丈夫! とりあえずまた来るから、今日は寝なさい! 寝れる限り寝なさい!」 「うん……」  睡眠薬でしか眠れなくなっていると、話は聞いている。  もう時期点滴の交換っぽいから、その時にお薬も来るのかな。  それを信じて、それでも枕を濡らし続けるさくらが寝入るのを見守ることにした。  案の定、点滴の交換が来て、眠れるお薬だと注射までされていた。  するとゆっくりと涙が止まり、か細いながらも寝息が聞こえてきた。 「煩くしてしまってすみません」  後片付けをする看護師さんにそう声をかけると、いえいえと柔らかな笑顔で笑ってくれた。 「もう入院して1ヶ月なんですけど、こんなに話してるのも初めて見たし、こんなに素直に寝る薬入れさせてくれたのも、今日が初めてなんですよ」  そうして部屋を出ていく後ろ姿を見送り、改めてさくらを見下ろした。  細く小さくなった彼女をここまで追い込んだあいつ、絶対許さない。  と言いたいところだけれど、それは彼女ーーさくらが絶対許さないと思うから、ゆっくりとでも原因を探らなければ……。  それも出来るだけ旦那さんに見つからないように……。  そう心に誓いつつ、明日からのシフト調整をするため、一旦病院を離れることにした。 ※※※※※※※※※※※※※※※※
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