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私の朝は早い。
6時には朝食を準備して、スーツにシワがないか確認する。
左ポケットにハンカチ、内ポケットの小銭入れには1000円札を入れる。
遠くから目覚まし時計の音がしてから、コーヒーメーカーのスイッチを入れる。
こぽこぽ音がし始めた頃、リビングの扉が開く。
「おはよう」
「んーおはよ」
寝癖がしっかりついた頭を掻き、大きなあくびをしながら入ってきた健一は相変わらずボタンがひとつずつズレている。
「朝ごはんできてるよ」
「うん」
どんな寝相でボタンがズレていくのか、摩訶不思議な私の旦那。本人は違うと言い切っているけれど、じゅうぶん亭主関白な態度は朝からしっかり現れている。
「あー、今日は懇親会だから、別のお金用意した?」
眠そうに食パンをかじりながら、それでも視線があまり宜しくない鋭さ。
「そうでした、ごめなさい、急いで準備します」
「何度も話してただろ? すぐ抜けるんだから」
「ごめんね」
慌てて財布から数枚の札を取りだし、内ポケットに入れた小銭入れに折りたたんで入れた。
「でももうひとつの財布の方に入れた方がいいんじゃないの?」
「後で移し替えるからいいよ、それより卵焼きが硬いよ」
「ごめん」
「昨日遅くまで起きてたからじゃないか?」
それでもしっかり食べきった彼は、もう一度財布の中身を確認してから着替えを始める。
身だしなみも整い、髪型もきっちりしてしまうと、見違えるようにカッコよくなる。
この姿はいつ見ても正直なところ、惚れ直してしまう。恥ずかしいけれど……。
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