最後の立会人

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「彼女はその話を聞いて、なんと言ったんですか?」  この質問に男は途端に目の色を変えた。  チョコを食べていると思っていたのに、こんなのチョコとは呼べないと否定された時の目のようだった。 「彼女はありえない。あなたのことを知らないと、俺を避けたんです。避けたんですよ? 思い出せないのは仕方ないとして、だったら俺の話をきちんと聞けば良いだけなんですよ。なのに彼女は、何度話しても嫌な顔をするばかりで……挙げ句の果てには、警察を呼びやがって」  途端に男はダンッと、机を両拳で殴った。  瞬時に後ろに控えていた警察官が立ち上がり、静かにしなさいと叫んだ。その警察官と僕は一瞬目が合ったように思う。  けれど男が力なく腰掛けると、警察官の方も自席に戻っていった。 「ちなみに前世であなた方は、いつの時代でどんな人間だったんですか?」  男が落ち着いたところで、僕は再び質問した。  男はすぐには答えず、しばし考え込むように机を見つめる。あれだけ豪語して、すぐに答えが出ないのは明らかにおかしい。僕はその時点で白だと判断し、そろそろ切り上げようとすら思い始めていた。  時間の無駄だ。  僕が立ち上がろうとすると、男は慌てふためき、両手をばたつかせた。 「分からないなら結構です」
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