不吉な予告

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不吉な予告

「ふぅ……」 ある高齢の男性が、自宅でお茶を飲んでため息をついた。 彼の名は乾笛吉(いぬいふえきち)、65歳。製紙業界の中小企業に定年後の再雇用まで勤め、今は自由自適な老後生活に入っていた。 だが彼は独身で子供もおらず、友達もいないのでひどく孤独だった。おまけに没頭できる趣味もこれといってない。笛吉は仕事が生きがいだったので、それを失った今、脱け殻のようにつまらぬ日々を送っていたのだ。 笛吉はふと考えた。 ひょっとして自分はもう死にたい、死んでもいいと思っているのではないかと。自殺をしてまで今すぐ終わらせようとは考えないまでも、自分の寿命がわかっていたら、先の見えない老後を不安がる必要もないだろうに。 むしろ、あまり長生きはしたくないな。せいぜい70歳くらいでいいや。苦しまずに突然死できたら幸せだろう。 そういえば、ずっと何かを探していたような気がする。そうか、それは伴侶でも趣味でもない、命日がいつかを知りたかったんだな。 "探しもの"は、自分の"命日"だったのか。 だが、自分がいつ死ぬのかがわかる人間など存在しない。今の笛吉は特に重い疾患もなく至って健康なので、平均寿命の80歳前後まで生きることを想定して、人生設計を立てておいた方が無難だ。 ピンポーン。 ふいに、家のインターホンが鳴った。 「はい」 「速達です」 「あ、どうも」 今の時刻は19時、こんな時間にと疑問に思いながら、郵便屋から速達を受け取った。 すぐに封を開けて、中身を確認する。中には薄く真っ白な紙が一枚入っており、でかでかとこう書かれていた。 『あなたの命日は、3月12日です』 「何だって?私の命日が?今日は3月8日だぞ?いや、待てよ。何年とは書いてない。フン、くだらない。これは誰かのイタズラだろう」 突然送り主が誰からかもわからない、謎の文書を読んで動揺が隠せない笛吉は、ふざけたイタズラだと思う反面、指定された"3月12日"を無意識に思い浮かべていた。 もしこの"3月12日"が今年だとして、仮に4日後を示しているとすると、自分はあとわずか4日で死んでしまうのだろうか?
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