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北風は西から吹く
え、きもちわる。
虹イストの第一印象である。
ー駅から徒歩7分、大月ビル
その1階は昔からある喫茶店(カフェという感じではない)で、その2階にある「介護ラボ大月支店」で、真亜子はOLをしていた。
彼女は4年生大学を卒業し大手不動産会社に就職したものの、押しの強くない性格でその他大勢を押し退けて出世どころか、萎縮して底辺を這う生活が続き、一念発起転職して今の会社へとたどり着いている。
ちょっとおつかい、と夕方近くに外出した帰りに
1階の喫茶店「コバコ」前で1人の女性に道を尋ねられたことが始まりだった。
「ここに行きたいんです。」
と真亜子が見せられたメモには「大月ビル7階 虹イスト」と書いてある。
「大月ビルならこの建物ですが……」
と真亜子は自分が勤める会社も入っている7階建てのテナントビルを指差して最上階を見上げた。
(そんな会社あったっけ、虹イスト)
ビル内のエレベーター横に会社案内がある。
(7階、7階、虹…イスト。)
「あ、ありますね。」
と真亜子は虹イストとゴシック体で貼ってあるシールを指さした。
(テプラかよ。とゆーことは最近入った会社かな。)
上階から降りてきて、リンゴン、とエレベーターの扉が開く。
このビルに新しく入ってきたらしい会社も気になる、それに急いで事務所に戻らないといけないわけでもないし、と好奇心に負けて真亜子は自分が先にエレベーターに乗り込み、虹イストへ向かうお客様を招き入れた。
(画期のある会社だといいな。品のある会社がいい。)
と数秒の間に少し夢が膨らんだけれども、7階で扉が開いたその瞬間、真亜子はぽかんと口をあけた。
目の前には紫のペンキが塗られたドアに、黒文字で「フォーチュンテラー 虹イスト ルームナンバー2」と書いてある。
そして、冒頭に戻る。
え、きもちわる。
「ご丁寧にありがとうございました。」
と真亜子が案内した女性は満面の笑みでエレベーターを降りていった。
今年30歳になった真亜子よりも少し年上だろうか、身のこなしが軽くなりそうなふわりとしたワンピースのスソをひらひらさせて、その女性は「フォーチュンテラー 虹イスト ルームナンバー2」の扉を戸惑うことなく開けた。
え、そこに入るのきもちわるくないですか?
社名と扉のカラーの気持ち悪さで眉間に皺を寄せている真亜子。
閉まりかけの扉。
その最後の少しの隙間にふっと男性の影がよぎった。
長い髪の男が目を細めて嬉しそうにワンピースの女性を部屋の奥へとエスコートして……扉はカチリと閉まってしまった。
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