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「綺麗なお嬢さんなのにもったいない事ですよ。美人短命といいますが、他人の手で寿命を縮められては、ね」
「生きてりゃ嫁に欲しいような娘だろう」
「公家顔が好みだったんですか」
「俺じゃねえよ、お前さんだ。俺あ、甲斐性もねえし、一人が性に合うんだ」
「そういうもんですかね、強がりじゃないんですか」
「へらず口も大概にしねえと拳骨が飛ぶぜ」
「ひゃあ、それは堪忍、堪忍。先輩のは痛いなんてもんじゃない、なんだかもうふわっ、としちゃうんだ」
「なんだよ、そのふわっと、ってえいうのは」
「魂魄がね、ふわっと口から」
「馬鹿野郎」
しかめ面で、藤堂が叱るがほんのりと笑いも顔に乗っかっているのが見えて池上はくしゃりと笑んだ。池上も藤堂のことを悪い感情でとらえていない。気難しいが、気持ちのいい男だと思っている。
そんな掛け合いをしながら通りを歩いていくと、数軒の家が見えた。その角、あの角、と池上に教えられるままに歩くとなんだか家、というには憚られる豪邸が見えた。決して新しくはない。どこぞの大名屋敷を移築したような、古めかしい家屋である。ごめんください、と声をかけると、下男とおぼしき老人が顔を出した。庭を履いていたのか竹箒を握る老人は三吉と名乗った。名前を名乗って用件を伝えると、三吉はそうですか、と暗い顔をしたが、それきりだった。特に悲しむ様子も見せないで主人を呼んで参ります、と奥に引っ込んだ。
池上と藤堂は顔を見合わせる。
「なんだか妙じゃありませんか。なにがどうとは言えませんが」
「まるで解っていたようじゃねえか」
「ええ」
屋敷の周りはしん、としていて喧騒は全くない。昔はここで、あの娘も遊んでいたろうか、と藤堂は広がる庭を見た。手入れがしっかりとなされているそれの中に離れがぽつん、とあって、茶室なのか、と思った。それにしては小汚い。物置のような小屋が、日本庭園の真ん中に建っている。妙だな、と思う。
気になった。
「あ、いけませんよ、勝手に入っては」
池上が後ろで慌てているが構うものか、と無視して小屋に近付いた。近くで見ると造りはしっかりとしているようで、随分前に建てられたものだと解る。戸板に苔が生えていた。戸に手をかけて引いてみる。中は暗くて見えない。だが最近まで、いや現在も使用されていたようだ。つん、と墨の香がした。
(墨?)
物置小屋にしては似合わない匂いだ。ゆっくりと中に入る。広さが十畳ほどの小屋の中は昼間だというのに中がなにも見えない。窓一つないそこはひやりとした。どうやらどこからか風が流れ込んでいるようなのだ。こう、こう、と音がする。なにか、あるのだ。
「地下があるのですよ」
そう藤堂が思った時、背後から声がした。振り向くといつのまにそこにいたのか若い男が立っている。藍の着流しを着た男、肌は白い。どこぞの書生のような、つまり理屈っぽいような、というイメエジを藤堂は受けた。
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