2人が本棚に入れています
本棚に追加
いよいよ引っ越し先の、目的の川に辿り着いた。
とは言っても、川の上に架かっている橋にだが。
まず、母ガモがお手本を見せるように、川へとジャンプした。
続いて前から順番に赤ちゃんガモ達が、躊躇いも見せず、ジャンプして橋から川へと落ちていった。
一番最後の菜々子の番になったが、
(こんな高いところからジャンプなんて出来ないよ。)
怖くて、全身が震えて、身動きが全く出来なかった。
母ガモや他の赤ちゃんガモは皆、川で悠々と泳いでいる。勇気を出して飛ぼうとするが、どうしても、菜々子だけが飛び込めなかった。
しばらくすると、母ガモが菜々子のところへ飛んできた。
ホッとしたのも束の間、
母ガモは菜々子を見て、
『アンタは私がいないと何にも出来ないのね。』
そう言って、いきなり後ろから菜々子を突き飛ばした。
何も言えず、菜々子は暗闇へ落ちていった。
ハッと菜々子は目を覚ました。
(夢か・・。怖かった・・)
心臓がバクバクと早鐘を打ったみたいに鳴って、苦しい。
(落ち着け。大丈夫大丈夫)
しばらくすると鼓動が落ち着いてきた。
(今、何時だ?)
ベッド横の棚を見ると、電子時計がPM.9時を表示していた。
思ったより、時間が経っていなくてホッとした。
菜々子は、さっきの夢を思い返すと、何故カルガモの親子に苛立つのか、少し分かったような気がした。
優しい人間達に見守られながら、応援されながら、引っ越ししていくカルガモ達が羨ましかった。
人間は生きていくなかで、このままだと目指している場所へ辿り着けない、間違った道を選んでも、誰も教えてはくれない。
さっき、テレビで見たカルガモ達は、川へのルートを離れると、さりげなく周りの人間が川へ誘導したり、車を止めたりしてくれる。
でも、私がどんなに困っていても、辛そうにしていても、周りの人間は私の方など見てはいない。誰も手をさしのべようとはしてくれない。
菜々子はそんな風に思い始めて悲しくなってきた。
最初のコメントを投稿しよう!