カルガモ親子のお引っ越し

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いよいよ引っ越し先の、目的の川に辿り着いた。 とは言っても、川の上に架かっている橋にだが。 まず、母ガモがお手本を見せるように、川へとジャンプした。 続いて前から順番に赤ちゃんガモ達が、躊躇いも見せず、ジャンプして橋から川へと落ちていった。 一番最後の菜々子の番になったが、 (こんな高いところからジャンプなんて出来ないよ。) 怖くて、全身が震えて、身動きが全く出来なかった。 母ガモや他の赤ちゃんガモは皆、川で悠々と泳いでいる。勇気を出して飛ぼうとするが、どうしても、菜々子だけが飛び込めなかった。 しばらくすると、母ガモが菜々子のところへ飛んできた。 ホッとしたのも束の間、 母ガモは菜々子を見て、 『アンタは私がいないと何にも出来ないのね。』 そう言って、いきなり後ろから菜々子を突き飛ばした。 何も言えず、菜々子は暗闇へ落ちていった。 ハッと菜々子は目を覚ました。 (夢か・・。怖かった・・) 心臓がバクバクと早鐘を打ったみたいに鳴って、苦しい。 (落ち着け。大丈夫大丈夫) しばらくすると鼓動が落ち着いてきた。 (今、何時だ?) ベッド横の棚を見ると、電子時計がPM.9時を表示していた。 思ったより、時間が経っていなくてホッとした。 菜々子は、さっきの夢を思い返すと、何故カルガモの親子に苛立つのか、少し分かったような気がした。 優しい人間達に見守られながら、応援されながら、引っ越ししていくカルガモ達が羨ましかった。 人間は生きていくなかで、このままだと目指している場所へ辿り着けない、間違った道を選んでも、誰も教えてはくれない。 さっき、テレビで見たカルガモ達は、川へのルートを離れると、さりげなく周りの人間が川へ誘導したり、車を止めたりしてくれる。 でも、私がどんなに困っていても、辛そうにしていても、周りの人間は私の方など見てはいない。誰も手をさしのべようとはしてくれない。 菜々子はそんな風に思い始めて悲しくなってきた。
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