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次の日、登校すると大賀美颯太の名前がクラスの名簿から消されていた。
冷や水を浴びせられたかのような気持になった。ひゅうっと喉の奥が鳴る。
実は心当たりがあった。
――ぼくは今朝、見てしまったのだ。
昨日の出来事が頭から離れず、野良犬の死体を確認しようと、登校の途中で神社にそっと寄ってきた。もしも死体がそのままになっていれば、放課後ケントとシュンに手伝ってもらって、内緒で境内にでも埋めてやろう、あのまま放っておかれるのはいくら何でもかわいそうだし――そんな風に考えて。だけど、そこには何も残っていなかった。あんなに激しい戦いだったのに、血痕もなかったのだ。夢かまぼろしだったのかと思ったが、舞台の床を見ると、一部がひどく抉れていた。
それを確認しただけで、ぼくの心臓はひっくり返りそうになったが、ことはそれで終りではなかった。
神社に向かう途中、大賀美の屋敷が視界に入った。そこでぼくは、黒白の幕と大きな提灯を見たのだ。それは、近所のじいさんが死んだ時に見たものと同じやつだった。誰かが亡くなると、家の周りに黒白の幕を下げて、提灯を飾るんだとじいちゃんから聞いたのを、ぼくはちゃんと覚えていた。
――つまり、大賀美家の誰かが、死んだのだ。
だから、学校で颯太の名前が消されていると知って、まさかと思った。その事実を結びつけたくはない。でも、これってそういうことなんだよな?
いつもと同じように、また明日って別れた相手が、突然死ぬことなんてあるのか?
もし交通事故とか、おおきな事件に巻き込まれたなら、教室はもっと大騒ぎになっているはずだ。だが、みんな妙に落ち着いているというか、静かだし、颯太がいないことに対して何の違和感もないみたいに振る舞っている。――ぼくは、それが怖い。
颯太に付きまとっていた女子も何も言わないし、颯太とよくつるんでいた奴らも、だんまりだった。全然、全く、話題にも上らない。いくら何でもひどすぎる。
確かめてみないと、何も分からない。
ぼくは、わざと明るく振る舞った。
「なあ、今日の帰りに颯太くんちに行ってみないか?」
すると、ケントとシュンは怪訝な顔をしてぼくを見た。
「……ソウタって、誰?」
「さあ。わかんね。アキラの新しい友だちか?」
その瞬間、ハンマーで頭を強く殴られたような衝撃を受けた。
頭からざあっと血がひいていく。すると途端にめまいがして、目の前が真っ白になった。
「なに、その冗談。全然笑えないんだけど」
口も、喉もカラカラに乾いていた。二人は本気で、颯太のことが分からないようだった。――二人どころではなく、クラスメイトの誰も、颯太のことを覚えていない。そんな人間、最初からいなかった、変なことをいうなと言わんばかりの視線を皆から浴びて、ぼくは身を固くした。
大賀美颯太がこのクラスにいたことは、ぼくだけしか知らなかったのだ。
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