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2  上の空で授業を受け、そのまま放課後になった。  今日は晴れ。雨雲が掛かるきざしもない。折りたたみ傘は壊れてしまっているので、助かった。久しぶりの青空はうれしいけれど、ぼくの心はじっとりとしていた。  ケントとシュンと別れ、うつむいて歩いていると、ぴかぴかに磨かれた黒いリムジンが、道脇に停まった。――颯太を送迎していた、大賀美家の車だとぼくはすぐに分かった。  窓をのぞいても車内は見えなかったが、一応会釈をする。それとほぼ同時に、助手席の窓が開いた。 「――アキラさま」  まさか話しかけられるとは思わず、ぎょっとして立ち止まる。  アキラさま――小学生にはあまりにも似つかわしくない。変なの。  車に乗っていたのは、いつも颯太に付き従っている黒服連中ではなく、清楚で美人な黒髪の乙女だった。色白で、藤色の着物がよく似あっているし、なんだか、いい匂いがした。  とりあえず、ぎくしゃくとしながらあいさつした。 「こ、こんにちは」 「ああ、大賀美家の御子息ともあろう方が歩いてお帰りになられるとはなんたること。本日はこちらの不手際により、お迎えが遅くなってしまい申し訳ございませんでした。明日からは必ず、迎えの車をお待ち頂きますようお願い申し上げます」 「……?」  言われたことの、意味がわからなかった。いや言葉として理解はできる。だけど、情報処理ができない。  鳩が豆鉄砲をくらった時って、きっとこんな気持ちなのだろう。咄嗟の言葉も出てこない。 「ちょっと、待ってください。えっと、ひとちがいです。ぼく、ミヤノです、宮野彰(みやのあきら)。大賀美の家の子じゃないです」  どぎまぎしつつ答えた。  もしかして、颯太とまちがえているのだろうか。
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