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そうだ、見かけない顔だし、颯太の新しい使用人かもしれない。
そんなぼくの考えが顔に出ていたのか、乙女はかしこまって、ていねいに頭を下げた。
「申し遅れました、わたくし、三峰ふじ子(みつみねふじこ)と申します。大賀美家当主にお仕えし、当主の命により、本日アキラさまをお迎えにあがった所存でございます。今後、わたくしがアキラさまの身の回りのお世話をさせていただきますので、どうぞお見知りおきくださいませ」
聞き間違いではない。
この人は確かに、『アキラさま』と言った。――とにかく、言っていることが不可解だ。
まさか、ぼくの考えている通り、颯太は死んでしまっている……?
あり得ないけれど、ぼくが颯太の代わりになった?
でも、どうして。ぼくは一般家庭で生まれた。担任からも、しょっちゅう「お前はふつうを体現したようなやつだ」って言われるのに。
ぼくの頭の中は糸が絡まったかのようにぐちゃぐちゃになって、混乱していた。
びっくりしているのはぼくだけではないようだった。ふじ子さんの方も、目をぱちくりと瞬かせ、ゆっくりとたずねた。
「……もしや、何もお聞きになっておられない?」
「なんのことですか?」
「御身に流れる血筋についてでございます。生まれこそ大賀美本家ではございませんが、元は大賀美から枝分かれした分家の一つ。アキラさまには、大賀美の後継者となる資格がございます。アキラさまは、大賀美の跡取りとしてお迎えになられたのです。あなた様は、将来大賀美を継いで、当主となられるのですよ」
――絶句した。
理解が追い付かない。頭が沸騰しそうだ。
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