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「そんな……意味わかんないよ。ぼくが……何だって?」
「大賀美の跡取りにございます」
わけが分からない。だが、ふじ子さんは至って真剣に話している。
ぼくは宮野彰、生まれも育ちも宮野家のはずだ。大賀美と親戚だなんて聞いたことがない。
「待ってください。大賀美家には颯太くんがいるでしょう? 頭もいい、足も早い、何をやっても一番の颯太くんが!」
ぼくの指摘にふじ子さんは一瞬戸惑いの表情を見せ、「確かにそうですが」とつぶやいた。
「残念ながら、颯太さまは、ゆえあって当主の座には就けないのでございます。そうなると、次代を担う方は、アキラさまをおいて、他にいらっしゃらないのです」
心臓が口から飛び出しそうな心地がした。思いつく理由は一つしかない。ぼくはゆっくりとたずねた。
「それって、大賀美さんちの誰かが死んじゃったのと、関係あったりしますか?」
――違うって言って!
心の中で叫んで、汗ばむ拳をぎゅっとにぎる。
彼女はつぶらな瞳を大きく見開き、少し考えてから、おもむろに答えた。
「ええ。まったくの無関係、というわけではございませんね」
なんか、ショックだった。
――じゃあ、死んだのは颯太なの?
それを問うことができなかった。喉に何かがつかえていて、苦しい。
颯太がどうなってしまったのか、何故クラスのみんなが颯太のことを覚えていないのか、はっきりさせるのが怖いのだ。
――ふじ子さんはきっと、全部知っている。
「……あの、それじゃあ……颯太くんとは、もう会えないの?」
声が震えた。これが、ぼくが踏み込める精一杯だった。
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