第14話 園田の本性

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第14話 園田の本性

 「早乙女さん?」 「えっ?」 「どうしたの? ここのところ心ここに在らずって感じだけれど……」  園田が俺の顔を心配そうにのぞき込む。 「……何でもないわ」  道明寺が退学になって一週間、付き合っている園田の前でも俺の道明寺を巻き込んでしまったという贖罪に囚われた暗く重い感情が滲み出てしまっている様だった。  実際、今も園田と一緒にヨネダ珈琲でデートしているが、以前の様に胸のときめきを感じなくなっていた。 「君が落ち込んでいる理由を当てようか? 道明寺の退学の事だろう?」 「………」  気まずい……ピタリと言い当てられているのもそうだが、彼氏とのデート中に別の男の事で思い悩んでいるなんて、俺が園田の立場だったら間違いなく嫉妬心に囚われていただろう。 「ああ、別に責めている訳じゃないからね? 僕を慕ってくれている子たちが君に酷い事をしたのは調べが付いてるんだ」  おいおい、何だって?   「……知っていたの? じゃあ道明寺君の処分を軽くしてもらえるよう園田君からも学校に掛け合ってもらえないかな?」 「それは無理だね」 「どうして?」 「実際彼は何人もの女生徒に手を上げているじゃないか、これは本人も認めている紛れもない事実だよ、それに学校は事態の収拾に責任を取るものを吊るし上げたい訳さ」 「そんなぁ……道明寺君だけが犠牲になるなんて……」 「これは普段の行いの差だね、優等生と不良……処罰するとしたらどちらにする? って話だよ」  なんて理不尽な……こんな事だから学校からいじめが無くならないんだ。  真実をひた隠しにして体裁だけを繕うこの歪な世界構造……吐き気がする。 「ただ安心して欲しい、もう山吹さんたちは君に危害を加える事はしないと僕に約束してくれたよ……君の為に僕が出来るのはこれくらいなものさ」 「そう、ありがとう」  本来ならもっと感謝の念の籠った返事をするべきなのだろうが、今はそんな気持ちになれなかった。  直前に交わした会話の内容があまりにも悪すぎる。 「ねぇ、私たち別れようか……」 「えっ!? どうしたんだい!? 急にそんな事を言い出すなんて!!」 「あなたが悪い人じゃないのは分かるけど、私達ものの考え方に大きなズレがあるのに気づいたの……もう終わりにしましょう?」  俺は確信する……目の前に座っている男、園田健太郎は俺の父親ではない。  いや仮に遺伝子的にそうだったとしても、こんな真実から目を背けそれを正そうともしない薄情な人間が俺の父親であって欲しくないというのが俺の心情だ。 「そうか……分かったよ、僕らはここまでにしようか」 「ゴメンなさい……」 「謝らないでくれよ、君は悪くない……どちらかと言えばあの日学校を休んだ僕に原因があるからね」 「………」  俺だった分かっている、園田も悪くないって事は。  偶然にも色々な事が絡み合ってあの事件が起きてしまったのは誰にも防ぎようがなかったんだ。 「お店出ようか……ああ、最後のデートだからね、僕に奢らせてよ」  園田は会計票をテーブルの伝票立てから引き抜くとレジの方へと歩いていった。  俺も急いで彼の後を追う。  店を出てから暫く無言で二人で歩く。  そして通りのあるところに差し掛かった時だった。 「君の心が僕から離れてしまったのはとても残念だ……でもね、僕には君にまだ用があるんだ」 「えっ?」  突然何を言い出すんだ園田は。  もしかして未練がましく俺との復縁を申し出るつもりなのだろうか?  だとしてもその申し出を受けるつもりは俺にはさらさら無いが。 「早乙女さん、君は光り輝く赤い球を持っているね?」 「………」  何……だと? なぜ園田がその事を? 「何の事かしら……?」  ここは知らない振りをするしかない。  これだけは今の時代の美沙にすら話していない俺と真紀(はは)だけの秘密だ。 「嫌だな気付いていなかったのかい? 僕と君が初めてキスした屋上で君のスカートのポケットから赤い光が漏れていたのを」 「えっ!?」  全く気が付かなかった、あの時に光っていたなんて。  思わず無意識に俺はいつも赤い玉を入れているスカートのポケットを押さえてしまった。 「やっぱり持っていたんだ、今日もそこに入ってるの?」 「お前、誘導尋問か?」 「いいや、光っていたのは本当だよ」 「何故、赤い玉の存在を知っている?」  俺は鋭い目つきで園田を睨みつけた。 「へぇ、急に表情も言葉遣いも変わったね……君は一体誰なんだい?」 「話すと思うか?」 「別にいいさ、君が誰であろうと身体が早乙女真紀さんの物ならそれでいい……そしてその赤い玉、クリムゾンレッドが本物なら尚の事」  この赤い玉はクリムゾンレッドと言うのか。  だが名称が分かった所で謎だけが益々深まっていく。 「おや? その表情、何が何だか分からないといった風だね」 「よ、余計なお世話だ」 「まあまあ、こんな人目につく往来で立ち話もなんだ、ちょっとこっちへ来てくれないか?」  園田が塀の方を指さす。  丁度そこには飲み物の自販機とベンチがある。  あれ? 何だ? ここには見覚えが有る気がするぞ?  ベンチの後ろに建物と建物の間にできる狭い隙間がある。  あっ、思い出した……ここは美沙と街に繰り出したときに通ったあの不思議な裏路地じゃないか。  俺一人で通った時には奥に空き地があったのだが美沙と行こうとしたら行き止まりになっていたんだっけ。 「……そこについて行ったら俺に不利益があるんじゃないのか?」 「俺……早乙女さんの中には男が入っているのか、だとしたら僕は男の子とデートして喜んでいたって事になるね、これは人には言えないな」 「はぐらかすな!!」 「おっと、君もあまり僕を甘く見ない方がいいよ、今はやんわりお願いしているけど従わないなら力尽くって形も取れるんだよ?」 「俺に選択肢は無いと?」 「そういう事になるね」  相変わらずの穏やかな顔で物騒な事を言うな。  こうして居ても埒が明かない、ここは覚悟を決めてこいつについていくしかない。  俺は園田に続き路地裏に入った。  ここは相変わらずの小汚さだな 「狭いから足元に気を付けて」 「知ってるよ、一度来ているからな」 「えっ?」 「嫌なんでも無い……」  おっと、余計な事は言わない方がいいな。  謎の男の声に導かれてここに来た事があるなんて言ったらまた何を要求されるか分かったものではない。 「着いたよ」 「………」  やっぱりそうだ、微妙な広さの四方を壁に囲まれた空き地に出た。 「ここなら思う存分語らう事が出来る」 「本当に語らいだけで済むならいいんだがな」 「それは君の出方次第だよ早乙女さん、いや中の人」 「聞こうじゃないかお前の要件とやらを」 「そうか、じゃあ単刀直入に言うね、君に僕との間に子を儲けて欲しいんだ」 「はい?」 「本当は円満に恋人って形でそれを行いたかったんだけどこうなってしまっては仕方がない、別に円満でなくても子供さえ作れればそれでいいんだよ我々の悲願の為にもね」  おいおい、まさか本当に園田が俺の父親なのか?  それに『我々』とも言ったな……これは組織的な何らかの陰謀なのか? 「ふざけるな!! 母さんの身体をお前みたいな奴に捧げて堪るか!!」 「母さん!? 何て事だ……いま早乙女さんの身体に入っている精神は既にその子供の物だって言うのか!?」  園田が恐らく初めて俺の前で激しく動揺した。  一体俺に何があるって言うんだ?  いや今はそんな事を考えている時ではない。  園田、コイツからは危険な匂いがする、今すぐここから離れなければ。  俺は今来た道を戻ろうとしたその時だ、その隙間に幾何学模様の光が走ったかと思うとそのまま壁に塞がれてしまったのだ。  これではこの空き地から出ることが出来ない。 「何だか僕らにも及び知らない事が起こっている様だ、これは今すぐにでも行動を起こさなければならないね」  園田がゆっくりと衣服を脱ぎながら俺に近付いて来る。 「止めろ!! 俺は男だぞ!!」 「そんなこと言って辞めると思うかい?」  俺は壁に背中を押し付けた格好で粋がるが園田は全く躊躇しないどころかどんどん近付き遂にはトランクス一丁になっていた。 「いやあああああっ!! 助けてーーーーー!!」 「今更無駄無駄、ここは外界から切り離された別空間に隔離されているんだ、誰も助けには来ないよ」 「何だその漫画みたいな設定はーーー!?」  万事休す、俺は、真紀(まき)はここで純潔を散らしてしまうのか? 
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