社会人6年目

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社会人6年目

「ちょっとした行動でも「できた。」と思えたことが青年を救ったんだよ。 少しのできたが、次の行動を起こす原動力になった。」 こう締めくくって、同僚の話は終わった。 同僚は私に「大丈夫。一歩ずつだ」と伝えたかったのだろう。 私は同僚にお礼と一つ質問をした。 「ありがとう。その青年は今何しているの?」 同僚は答えた。 「わからない。でもきっと前向きに暮らしていると思うよ。」 同僚は、青年が今どこで何をしているか知らない。 実は私は知っている。 同僚が話始めた時から、私の知っている人の話だとわかっていた。 青年は今、社会人6年目。 新卒で中小企業に入社してから、ずっと同じ会社で働いている。 好奇心を手に入れてから、行動を起こせるようになり、なんとか大学を卒業して、就職活動もうまくいった。 午後8時、仕事帰りの電車で、ふと青年のことを考えていた。 青年はやりたいことを諦めることができたのか? 青年はまだ奇跡を信じているのか? 青年は幸せか? もちろん答えは知っている。 まだ諦めきれずにいるし、相変わらず奇跡を信じている。 昔ほどではないが、映画もほぼ毎日観ている。 新しいことに挑戦するのは好きだ。 でも本当は奇跡を探し回っているだけなのかもしれない。 「学校の先生はどうして諦め方を教えてくれなかったのか?」 なんてことをたまに考えてしまう。 でも、幸せだ。 仕事は好きだし、人に恵まれているし、夜も眠れる。 ちゃんと現実を見据えて行動できている。 とても健全な大人だ。 幸せだ。 幸せなんだ。 そうに違いない。 電車を降りて、改札口を出た。 改札口の目の前には、自分の夢を楽しそうに語る子供と、その子供の親がベンチに座っていた。 その子の夢は宇宙飛行士だそうだ。 いい夢だ。 私はダメだったけれど、この子には夢を叶えてほしい。 「もしかしたら」「もう少し頑張れば」 駅から家までの帰り道、頭にまとわりつく、無責任な言葉を振り払いながら、 次に観る映画のことを考えていた。
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